『そうか、そうか、つまり君はそんなやつなんだな』
p21「少年の日の思い出」より
これが読めたので満足。
〇あらすじ
蝶の採集にともなうほろ苦い記憶 ヘッセ「少年の日の思い出」
胡桃を割り、心を割る 永井龍男「胡桃割り」
田舎にやってきたあかぬけたあの子(一人目) 井上靖「晩夏」
人生の物寂しい情景 長谷川四郎「子供たち」
ふてくされ少年の目が輝いた日 安岡章太郎「サアカスの馬」
成長の喪失と獲得 吉行淳之介「童謡」
人に馴らされた神の馬 竹西寛子「神馬」
真昼、十数年越しに裁かれた罪 山川方夫「夏の葬列」
えんびフライが食べたい 三浦哲郎「盆土産」
血は争えない 柏原兵三「幼年時代」
田舎にやってきたあかぬけたあの子(二人目) 阿部昭「あこがれ」
身分社会の浮彫 魯迅「故郷」
以上11編収録。
〇感想
意外とこんなんあったな、て思い出せるもんですね。
「神馬」が一番好み。「童謡」も好き。
「少年の日の思い出」とか、「夏の葬列」とかそっちには、とても個人的なある種の感傷がにじみ出てる気がしてあんまり目新しさはない。
その点、「神馬」はそういうとこを超越したどうしようもなさに打ちのめされる感じがあってよかった。
ほのぼのしたのは「幼年時代」。主人公が幼稚園児。それだけでかわいい。
「少年の日の思い出」って、「エーミール!」って呼びかけるシーンなかったんですね。
あとエーミールって主人公の名前じゃなくて友達だった。
『エーミールと探偵たち』と記憶が混ざってる。
改めて読むと、倫理的正義の前に一切の酌量なく断罪されてる気持ちになって悲しかった。しかも100パーセント主人公悪いし。でもこういうことってままありますよね。
〇印象に残ったシーン
「晩夏」本書p64より。
そのうちに、夜の闇が全く、松の木も大学生の姿も呑んでしまった。私は息を弾ませながら一本の立木にもたれていた。手や足の方々が痛かった。至るところ負傷しているらしかった。
私は浜のほうへでて、草叢から雑草の葉をむしりとると、それを膝頭や手首の負傷個処へ擦り付けた。
私は、戦い終わったものの感傷で、暗い海を眺めた。曇っているせいか、海には一点の漁火も見えず、エンジンの音を海面に響かせていた。
これ、あこがれの子と親戚関係のお兄さんが、彼女と仲良く話していたのに嫉妬して、彼に皆で石を投げてぼこぼこにする計画を実行した後のシーンなんですが、何感傷に浸ってんだお兄さん可哀そうすぎだろ、て思った。
少年は家の中で彼女の声がするような気がしていつまでも耳をそばだてた。
そういう日がずっとつづいた。そして、六月の雨のふる日曜日、少年が玄関のポーチに出てぼんやり立っていると、目のまえを彼女が赤い傘をさして通りかかった。
彼女は彼がいるのを見つけて門の外から声をかけた。
彼は、どうしよう、と思った。
(「あこがれ」本書p198より)
こっちの子とはえらい違いだよな。前者はトトロのカンタがもっとやんちゃになったイメージ。