寝楽起楽

最近は頑張って読書感想ブログにしてます。

                ネタバレには配慮しない感想ブログです。

発掘された新概念:『中動態の世界 意思と責任の考古学』 國分功一郎 医学書院 2017年

私は毎日さまざまなことをしている。たえず何ごとかをなしている。 だが、私が何ごとかをなすとはいったいどういうことだろうか?どんな場合に、「私が何ごとかをなす」と言えるのだろうか? たとえば、私が「何ごとかをさせられている」のではなく、「何ご…

愛のディスコミュニケーション:『私たちがやったこと』 レベッカ・ブラウン 柴田元幸訳 マガジンハウス 2002年

あなたは両腕で私を包み込んで、言ってくれた、明るいわよ、明るいわよ、明るいわよ、明るいわよ、と。そしてあなたは私を抱きしめて、言ってくれた、今夜はもうずっと、朝が来る直前まで明るいのよ、朝になったらギャラリーが開く前にここを出なくちゃね、…

治癒の歌:『キリンの子』 鳥居著 KADOKAWA  2016年

目を伏せて空へのびゆくキリンの子 月の光はかあさんのいろ キリンの子 鳥居歌集 作者: 鳥居 出版社/メーカー: KADOKAWA/アスキー・メディアワークス 発売日: 2016/02/09 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (7件) を見る ○内容 両親離婚→目の前で母が自…

300年の文学:『ブリティッシュ&アイリッシュ・マスターピース』 柴田元幸訳 スイッチ・パブリッシング 2015年

この本は要するに、いわゆる「英文学」の名作短編を集めたアンソロジーである。当翻訳者が個人的に長年敬意を抱き、何度か読み直してきた作品が並んでいるというだけでなく、これまで刊行された多くの英文学傑作短編集などにも繰り返し選ばれてきた名作中の…

江戸女の粋:『応為坦坦録』 山本昌代 河出書房新社 1984年

娘の方は父親を名前で呼びつけにするけれども、逆に父親の方は自分の娘を「お宋」とその名で呼んだことがない。用事のある時は決まって「オーイ」と呼ぶ。返事がなくてもやっぱりまた「オーイ」と呼ぶ。お宋が家に居ないのにいつまでも「オーイ」「オーイ」…

有機体を為す街:『乳しぼり娘とゴミの丘のおとぎ話』 ラティフェ・テキン著 宮下遼訳 河出書房新社 2014年(原著1984年)

一日中巨大なダンプカーが都市から出るゴミを運んで来ては捨てていく、とある丘の上に幾つものゴミ山がそびえていた。ある冬の晩のこと、そのゴミ山から少し離れたところに松明のあかりをたよりに八軒の一夜建てが築かれた。翌朝、一夜建ての屋根にその年は…

ここは地獄、どこでも地獄:『優しい鬼」 レナード・ハント 柴田元幸著 朝日新聞出版 2015年

むかしわたしは鬼たちの住む場所に暮らしていた。わたしも鬼のひとりだった。わたしは今年寄りでそのころは若かったけれど、じつはそんなにすごくまえの話ではなく、単にわたしにはめていた枷を時が手にとってねじっただけのこと。いまわたしはインディアナ…

ふわふわしたおじさんの軍団:『僕の名はアラム』 ウィリアム・サローヤン著 柴田元幸訳 新潮文庫 2016年(原著1940年)

僕が九歳で世界が想像しうるあらゆるたぐいの壮麗さに満ちていて、人生がいまだ楽しい神秘な夢だった古きよき時代のある日、僕以外のみんなから頭がおかしいと思われていたいとこのムーラッドが午前四時にわが家にやってきて、僕の部屋をこんこん叩いて僕を…

愛の爆弾:『こちらあみ子』 今村夏子著 2014年 ちくま文庫

スコップと丸めたビニル袋を手に持って、あみ子は勝手口の戸を開けた。ここ何日かは深夜に雨が降ることが多かった。雨が降った翌日は、足の裏を地面から引きはがすようにしてあるかなければならないほどぬかるみがひどかった表の庭に通じる道も、昨日丸一日…

一日魔法使い:『メアリと魔女の花』 メアリー・スチュアート著 越前敏弥・中田有紀訳 2017年 角川文庫

まったく、いやになるくらい、ありふれた名前だ。メアリ・スミスだなんて。ほんとにがっかり、とメアリは思った。なんの取り得もなくて、十歳で、ひとりぼっちで、どんより曇った秋の日に寝室の窓から外を眺めたりして、そのうえ名前はメアリ・スミスだなん…

instagramにおけるネカマの可能性について

小説投稿サイト「カクヨム」で、雅島貢さんという方が自らの作品のため、instagramで女子大生なりきりをしている、という話を此処のところされている。 いわゆる女子なりきり、ネカマというものはネットが登場して以来連綿と存在しつづけるものだが、instagr…

好きな短歌10選

『短歌の友人/穂村弘』『短歌をよむ/俵万智』『現代秀歌/永田和宏』『近代秀歌/永田和宏』読んだ。 てわけで今回は、そん中からこれは良い、と思った短歌を10首選んで紹介する。 どれもこれも短歌の入門書的な立ち位置のものなので、おそらく短歌が好き…

26歳女子の一歩:『勝手にふるえてろ』 綿矢りさ著 2012年 文春文庫

とどきますか、とどきません。光かがやく手に入らないものばかり見つめているせいで、すでに手に入れたものたちは足元に転がるたくさんの屍になってライトさえ当たらず、私に踏まれてかかとの形にへこんでいるのです。とどきそうにない遠くのお星さまに受か…

静かに脈を打つ:『校舎の静脈』 日和聡子 2015年 新潮社

「おふくろ?」 驚いた息子をなだめるようにして、母親はやさしく包み込むような声を掛けた。 ――よう帰ってきましたね。 声を発するものは、目の前に坐る猫であった。その声の懐かしさに、彼は取り返しのつかないことをしてしまったと気づいて、猛烈に悔いた…

穏やかな魑魅魍魎:『御命天纏佐左目谷行』 日和聡子 講談社 2014年

影は、楡の木陰で、こちらを見ていた。 冥い、黄色い目だった。はじめは見ぬふりをしようとした。しかし、無理だった。 釘付けにされ、引き寄せられた。こちらから、近づいていった。声はかけなかった。木陰に入り、そばへ寄ると、影は黙って背を向け、幹を…

存在狂い:『嘔吐』 ジャン=ポール・サルトル 鈴木道彦訳 人文書院 2010年

存在はやわらかい、そして転がり、揺れ動く、私は家々のあいだを揺れ動く、私は在る、私は存在する、私は考える故に揺れる、私は在る、存在は転落だ、落ちた、落ちないだろう、落ちるだろう、指が開口部を掻く、存在は不完全である。男だ。このめかしこんだ…

ゆるやかに連帯する16編:『小川洋子の陶酔短編箱』 小川洋子編 2017年 河出文庫

でも、文学の中で起こる偶然を、私はどうしても素通りできないのです。それに出会う時、いつでもささやかな喜びを感じ、いっそう文学を求める気持ちが強くなっています。たぶん本の世界には、私が思うよりもずっと広大で意味深いつながりが張り巡らされてい…

運命の出会い:『君の名は。』 新海誠監督 2016年

www.youtube.com 今更鑑賞。 ○あらすじ いれかわちゃった。 「君の名は。」Blu-rayスタンダード・エディション(早期購入特典:特製フィルムしおり付き) 出版社/メーカー: 東宝 発売日: 2017/07/26 メディア: Blu-ray この商品を含むブログ (5件) を見る ○考察…

救い:『言の葉の庭』 新海誠監督 2013年

m.youtube.com 雨の演出の美麗さ最高。 言の葉の庭 発売日: 2014/11/15 メディア: Amazonビデオ この商品を含むブログを見る ○あらすじ バッシングで学校に行けなくなった女性教師と靴職人になりたい学校の生徒がお互いの素性は知らず雨の公園で心を通わせ合…

海賊は誰だ:『パイレーツオブカリビアン 最後の海賊』 ヨアヒム・ローニング&エスペン・サンドベリ監督 2017年

m.youtube.com ※ネタバレには配慮しないです。それでも良いという方のみどうぞ ※前作以前のは見たり見てなかったりで記憶も曖昧なため、今作のみでの考察をします。 ○あらすじ 10年に一度しか陸に出られない父の呪いを解きたい青年と行方知らずの父を追い求…

女性のためのファンタジー?:『ゲド戦記4 帰還』 アーシュラ・ル=グウィン 清水真砂子訳 2006年

「つまり、男は皮をかぶってるんじゃないかと。かたい殻を被ったクルミみたいに。」コケは言いながら、ぬれた、長い、曲がった指でクルミをつまみあげるしぐさをした。「まったくこの殻は固くて、丈夫で、中は男がいっぱい。すごい男の肉がびっしり。どこを…

こどもの現実:『マイマイ新子と千年の魔法』 片渕須直監督 2009年

www.youtube.com 片淵監督は『この世界の片隅に』撮った人です。 マイマイ新子と千年の魔法 発売日: 2015/05/25 メディア: Amazonビデオ この商品を含むブログを見る 〇あらすじ 空想好きの女の子が東京から来た転校生と仲良くなっていろいろする 〇考察・感…

空飛ぶばかりじゃいられない:『魔女の宅急便』 宮崎駿監督 1989年

www.youtube.com 魔女の宅急便 [DVD] 出版社/メーカー: ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社 発売日: 2014/07/16 メディア: DVD この商品を含むブログ (9件) を見る 言わずと知れた名作。見たことないと抜かす知人が居たので借りて一緒に見た。 〇あらす…

フランス的エスプリを超えた何か:『ぼくの伯父さん』 ジャック・タチ監督 1958年

www.youtube.com よくわかんないまま見終えてしまい、今もよく分からない。 ジャック・タチ「ぼくの伯父さん」【DVD】 出版社/メーカー: 日本コロムビア 発売日: 2015/02/25 メディア: DVD この商品を含むブログを見る ○あらすじ ネジがゆるんでるおじさんが…

圧倒的情感:『老妓抄』岡本かの子 新潮文庫 1950年

目立たない洋髪に結び、市楽の着物を堅気風につけ、小女一人連れて、憂鬱な顔をして店内を歩き廻る。恰幅のよい長身に両手をだらりと垂らし、投げ出していくような足取りで、一つところを何度も廻り返す。そうかと思うと、紙凧のようにすっとのして行って、…

なしくずしの冒険:『オズの魔法使い』ライマン・フランク・ホーム 柴田元幸訳 2013年

「マンチキンの国へようこそ、この上なく高貴なる魔法使いさま。東の国の悪い魔女を退治してくださり、民を囚われの身から解きはなってくださったこと、わたくしどもみな心から感謝しております」 この演説に、ドロシーは茫然としてしまった。あたしのことを…

受け取ったもの:『メッセージ』(原題:arrival) ドゥニ・ヴィルヌーブ監督 テッドチャン原作(字幕版公開中)

www.youtube.com 友人が薦めてたので観て来ました。良かったよ。 ○あらすじ 突如飛来した宇宙人、その目的を探るために言語学者が頑張る ※ネタバレには配慮せずにいくので、今後見に行く可能性があるなら覚悟して読んでください。 人類vs宇宙人の骨肉の争い…

主役になりたい僕らのマニュアル:『人間・この劇的なるもの』 福田恆存 新潮文庫 1960年

自己が他人を、いや自分自身をも、明確に見るための演戯と、私はいった。が、見るというのは、たんなる認識でも観察でもなく、見たものを同時に味わうということにほかならぬ。すでに劇の進行について語ったように、意識は先走りしてはならぬのだ。役者は劇…

沈んだ意識の向こう:『水域(上)(下)』 漆原友紀 講談社 2011年

今回は漫画。 水域 上・下 全2巻セット(アフタヌーンKC)(コミック) 作者: 漆原 友紀 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 2011 メディア: コミック この商品を含むブログを見る ○あらすじ 酷暑の夏、少女はマラソンの途中で意識を失い、その最中に村を幻…

い つ も の:『女のいない男たち』 村上春樹 文春文庫 2014年

女のいない男たちになるのはとても簡単なことだ。一人の女性を深く愛し、それから彼女がどこかに去ってしまえばいいのだ。ほとんどの場合(ご存じのように)、彼女を連れて行ってしまうのは奸智に長けた水夫たちだ。彼らは言葉巧みに女たちを誘い、マルセイユ…