寝楽起楽

最近は頑張って読書感想ブログにしてます。

                ネタバレには配慮しない感想ブログです。

読書

ハンター必携:『クマにあったらどうするか:アイヌ民族最後の狩人』 語り手・姉崎等 聞き書き・片山龍峯 ちくま文庫 2014年

CAPCOMが送る大人気ゲームシリーズ、『モンスターハンター』の最新作が発売されて一か月弱が経ちました。皆さん、充実した狩り暮らしを送っていますでしょうか? ゲーム脳が取り沙汰されたのは一昔前のことですが、中にはコントローラーを握りながら、「自分…

エンジョイ勢からガチ勢まで:『マヤ・アステカ不可思議大全』 芝崎みゆき 草思社 2010年 

突然ですが皆さんは、歴史が好きでしょうか? 「受験の時にやったきりで、もう全く覚えていない」 「小ネタは楽しかったけど、人名やら年号やら覚えるのは苦手だった」 おそらくはこうした人が大半で、大人になってから改めて本格的に勉強しようと思っても、…

詩人の感性:『短歌ください』 穂村弘 角川文庫 2014年

穂村弘はまず、純粋な読者として、びっくりさせられたいんだと願っている。と、同時に、どんなに意外な作品でも、そのよさを自分はキャッチすることが出来るという自信と自負があるのだろう。そうでなかったら、毎回毎回「意外な作品」なんていい続けられな…

絶対の三原則:『わたしはロボット』 アイザック・アシモフ 伊藤哲訳 創元SF文庫 1976年

ロボット工学の三原則 一、ロボットは人間に危害を加えてはならない。また何も手を下さずに人間が危害を受けるのを阻止してはならない。 二、ロボットは人間の命令に従わなくてはならない。ただし第一原則に反する命令はその限りではない。 三、ロボットは自…

発露する風鈴たち:『ひだりききの機械』 吉岡太朗著 短歌研究社 2014年

両手とも左手なのでひだりがわに立たないとあなたと手をつなげない 利き腕がある機械、ていう発想。しかも両手ともひだり。不器用そう。 ひだりききの機械―歌集 作者: 吉岡太朗 出版社/メーカー: 短歌研究社 発売日: 2014/04 メディア: 単行本 この商品を含…

震わせろ縄文魂:『縄文ZINE 土』 縄文ZINE編集部 2018年

新しいことばかりが発見じゃない。自分にとって勇気が湧くような古い映画だって、年の離れたお兄ちゃんが教えてくれた80年代のUKロックだって、もちろんもっともっと古い時代、歴史や縄文時代のことも誰かの大切な発見となることだってあるだろう。 レコード…

自己啓発じゃ終わらない:『アルケミスト 夢を旅した少年』 パウロ・コエーリョ著 山川紘也・山川亜希子訳 角川文庫 2004年(原著1988年)

「おまえさんはわしにとって、本当に恵みだった。今まで見えなかったものが、今はわかるようになった。恵みを無視すると、それが災いになるということだ。わしは人生にこれ以上、何も望んでいない。しかし、おまえはわしに、今まで知らなかった富と世界を見…

沈む館からの脱出:『遠い声 遠い部屋』 トルーマン・カポーティ 河野一郎訳 新潮文庫 1955年(原著1948年)

ポーチの上の3人は、木版画にきざまれた姿のようであった――りっぱな枕の王座にすわった老人、主人の膝に寝そべり、その足元にぬかずく小さな召使を、溺れゆく光の中でじっと見守っている黄色い愛玩動物、そして祈祷を捧げるかのように、ひときわ高くさし上げ…

現の夢か、夢の現か:『シルヴィーとブルーノ』 ルイス・キャロル著 柳瀬尚紀訳 ちくま文庫 1987年(原著1889年)

――するともう一度どっと歓声が沸きあがり、とびきり興奮していたひとりの男が帽子を空中高く放りあげ(ぼくにわかった限りでは)こう叫んだのだった。「副総督閣下に万歳だ!」ひとり残らず歓声をあげたものの、それが副総督のためなのか、そうでないのかは…

宇宙

人類は小さな球の上で 眠り起きそして働き ときどき火星に仲間を欲しがったりする 火星人は小さな球の上で 何をしてるか 僕は知らない (或はネリリし キルルし ハララしているか) しかしときどき地球に仲間を欲しがったりする それはまったくたしかなこと…

たわだ語の思想:『エクソフォニー 母語の外へ出る旅』 多和田葉子著 岩波現代文庫 2012年

人間だけではなくて、言語にもからだがある、と言う時、わたしは一番、興奮を覚える。日本語にも、たとえば、文章のからだ、「文体」という言葉がある。文章はある意味を伝達するだけではなく、からだがあり、からだには、体温や姿勢や病気や癖や個性がある…

無貌の意思:ジャック・ロンドン「萎えた腕」他感想 雑誌『MONKEY』VOL7より

「我らは知っている。父親から、そのまた父親から一部始終を聞いた。彼らはまるで子羊のようにやってきた。もの静かなしゃべり方をした。連中がもの静かにしゃべったのも当然だ。当時は我らのほうが数が多く、強力で、すべての島を支配していあたのだから。…

愛のディスコミュニケーション:『私たちがやったこと』 レベッカ・ブラウン 柴田元幸訳 マガジンハウス 2002年

あなたは両腕で私を包み込んで、言ってくれた、明るいわよ、明るいわよ、明るいわよ、明るいわよ、と。そしてあなたは私を抱きしめて、言ってくれた、今夜はもうずっと、朝が来る直前まで明るいのよ、朝になったらギャラリーが開く前にここを出なくちゃね、…

治癒の歌:『キリンの子』 鳥居著 KADOKAWA  2016年

目を伏せて空へのびゆくキリンの子 月の光はかあさんのいろ キリンの子 鳥居歌集 作者: 鳥居 出版社/メーカー: KADOKAWA/アスキー・メディアワークス 発売日: 2016/02/09 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (7件) を見る ○内容 両親離婚→目の前で母が自…

300年の文学:『ブリティッシュ&アイリッシュ・マスターピース』 柴田元幸訳 スイッチ・パブリッシング 2015年

この本は要するに、いわゆる「英文学」の名作短編を集めたアンソロジーである。当翻訳者が個人的に長年敬意を抱き、何度か読み直してきた作品が並んでいるというだけでなく、これまで刊行された多くの英文学傑作短編集などにも繰り返し選ばれてきた名作中の…

江戸女の粋:『応為坦坦録』 山本昌代 河出書房新社 1984年

娘の方は父親を名前で呼びつけにするけれども、逆に父親の方は自分の娘を「お宋」とその名で呼んだことがない。用事のある時は決まって「オーイ」と呼ぶ。返事がなくてもやっぱりまた「オーイ」と呼ぶ。お宋が家に居ないのにいつまでも「オーイ」「オーイ」…

有機体を為す街:『乳しぼり娘とゴミの丘のおとぎ話』 ラティフェ・テキン著 宮下遼訳 河出書房新社 2014年(原著1984年)

一日中巨大なダンプカーが都市から出るゴミを運んで来ては捨てていく、とある丘の上に幾つものゴミ山がそびえていた。ある冬の晩のこと、そのゴミ山から少し離れたところに松明のあかりをたよりに八軒の一夜建てが築かれた。翌朝、一夜建ての屋根にその年は…

ここは地獄、どこでも地獄:『優しい鬼」 レナード・ハント 柴田元幸著 朝日新聞出版 2015年

むかしわたしは鬼たちの住む場所に暮らしていた。わたしも鬼のひとりだった。わたしは今年寄りでそのころは若かったけれど、じつはそんなにすごくまえの話ではなく、単にわたしにはめていた枷を時が手にとってねじっただけのこと。いまわたしはインディアナ…

ふわふわしたおじさんの軍団:『僕の名はアラム』 ウィリアム・サローヤン著 柴田元幸訳 新潮文庫 2016年(原著1940年)

僕が九歳で世界が想像しうるあらゆるたぐいの壮麗さに満ちていて、人生がいまだ楽しい神秘な夢だった古きよき時代のある日、僕以外のみんなから頭がおかしいと思われていたいとこのムーラッドが午前四時にわが家にやってきて、僕の部屋をこんこん叩いて僕を…

愛の爆弾:『こちらあみ子』 今村夏子著 2014年 ちくま文庫

スコップと丸めたビニル袋を手に持って、あみ子は勝手口の戸を開けた。ここ何日かは深夜に雨が降ることが多かった。雨が降った翌日は、足の裏を地面から引きはがすようにしてあるかなければならないほどぬかるみがひどかった表の庭に通じる道も、昨日丸一日…

一日魔法使い:『メアリと魔女の花』 メアリー・スチュアート著 越前敏弥・中田有紀訳 2017年 角川文庫

まったく、いやになるくらい、ありふれた名前だ。メアリ・スミスだなんて。ほんとにがっかり、とメアリは思った。なんの取り得もなくて、十歳で、ひとりぼっちで、どんより曇った秋の日に寝室の窓から外を眺めたりして、そのうえ名前はメアリ・スミスだなん…

好きな短歌10選

『短歌の友人/穂村弘』『短歌をよむ/俵万智』『現代秀歌/永田和宏』『近代秀歌/永田和宏』読んだ。 てわけで今回は、そん中からこれは良い、と思った短歌を10首選んで紹介する。 どれもこれも短歌の入門書的な立ち位置のものなので、おそらく短歌が好き…

26歳女子の一歩:『勝手にふるえてろ』 綿矢りさ著 2012年 文春文庫

とどきますか、とどきません。光かがやく手に入らないものばかり見つめているせいで、すでに手に入れたものたちは足元に転がるたくさんの屍になってライトさえ当たらず、私に踏まれてかかとの形にへこんでいるのです。とどきそうにない遠くのお星さまに受か…

静かに脈を打つ:『校舎の静脈』 日和聡子 2015年 新潮社

「おふくろ?」 驚いた息子をなだめるようにして、母親はやさしく包み込むような声を掛けた。 ――よう帰ってきましたね。 声を発するものは、目の前に坐る猫であった。その声の懐かしさに、彼は取り返しのつかないことをしてしまったと気づいて、猛烈に悔いた…

穏やかな魑魅魍魎:『御命天纏佐左目谷行』 日和聡子 講談社 2014年

影は、楡の木陰で、こちらを見ていた。 冥い、黄色い目だった。はじめは見ぬふりをしようとした。しかし、無理だった。 釘付けにされ、引き寄せられた。こちらから、近づいていった。声はかけなかった。木陰に入り、そばへ寄ると、影は黙って背を向け、幹を…

存在狂い:『嘔吐』 ジャン=ポール・サルトル 鈴木道彦訳 人文書院 2010年

存在はやわらかい、そして転がり、揺れ動く、私は家々のあいだを揺れ動く、私は在る、私は存在する、私は考える故に揺れる、私は在る、存在は転落だ、落ちた、落ちないだろう、落ちるだろう、指が開口部を掻く、存在は不完全である。男だ。このめかしこんだ…

ゆるやかに連帯する16編:『小川洋子の陶酔短編箱』 小川洋子編 2017年 河出文庫

でも、文学の中で起こる偶然を、私はどうしても素通りできないのです。それに出会う時、いつでもささやかな喜びを感じ、いっそう文学を求める気持ちが強くなっています。たぶん本の世界には、私が思うよりもずっと広大で意味深いつながりが張り巡らされてい…

女性のためのファンタジー?:『ゲド戦記4 帰還』 アーシュラ・ル=グウィン 清水真砂子訳 2006年

「つまり、男は皮をかぶってるんじゃないかと。かたい殻を被ったクルミみたいに。」コケは言いながら、ぬれた、長い、曲がった指でクルミをつまみあげるしぐさをした。「まったくこの殻は固くて、丈夫で、中は男がいっぱい。すごい男の肉がびっしり。どこを…

圧倒的情感:『老妓抄』岡本かの子 新潮文庫 1950年

目立たない洋髪に結び、市楽の着物を堅気風につけ、小女一人連れて、憂鬱な顔をして店内を歩き廻る。恰幅のよい長身に両手をだらりと垂らし、投げ出していくような足取りで、一つところを何度も廻り返す。そうかと思うと、紙凧のようにすっとのして行って、…

なしくずしの冒険:『オズの魔法使い』ライマン・フランク・ホーム 柴田元幸訳 2013年

「マンチキンの国へようこそ、この上なく高貴なる魔法使いさま。東の国の悪い魔女を退治してくださり、民を囚われの身から解きはなってくださったこと、わたくしどもみな心から感謝しております」 この演説に、ドロシーは茫然としてしまった。あたしのことを…