寝楽起楽

ネタばれには配慮しない、感想/紹介ブログです。毎週1回更新 +α を目指したかった。

読書ー小説

ゆるやかに連帯する16編:『小川洋子の陶酔短編箱』 小川洋子編 2017年 河出文庫

でも、文学の中で起こる偶然を、私はどうしても素通りできないのです。それに出会う時、いつでもささやかな喜びを感じ、いっそう文学を求める気持ちが強くなっています。たぶん本の世界には、私が思うよりもずっと広大で意味深いつながりが張り巡らされてい…

女性のためのファンタジー?:『ゲド戦記4 帰還』 アーシュラ・ル=グウィン 清水真砂子訳 2006年

「つまり、男は皮をかぶってるんじゃないかと。かたい殻を被ったクルミみたいに。」コケは言いながら、ぬれた、長い、曲がった指でクルミをつまみあげるしぐさをした。「まったくこの殻は固くて、丈夫で、中は男がいっぱい。すごい男の肉がびっしり。どこを…

圧倒的情感:『老妓抄』岡本かの子 新潮文庫 1950年

目立たない洋髪に結び、市楽の着物を堅気風につけ、小女一人連れて、憂鬱な顔をして店内を歩き廻る。恰幅のよい長身に両手をだらりと垂らし、投げ出していくような足取りで、一つところを何度も廻り返す。そうかと思うと、紙凧のようにすっとのして行って、…

い つ も の:『女のいない男たち』 村上春樹 文春文庫 2014年

女のいない男たちになるのはとても簡単なことだ。一人の女性を深く愛し、それから彼女がどこかに去ってしまえばいいのだ。ほとんどの場合(ご存じのように)、彼女を連れて行ってしまうのは奸智に長けた水夫たちだ。彼らは言葉巧みに女たちを誘い、マルセイユ…

消える魔法の行方:『ゲド戦記3 さいはての島へ』アーシュラ•K.ル=グウィン 清水真砂子訳 岩波少年文庫 2009年

エンラッドでは誰もがアレンの父に一目置いており、アレンはその父の息子であった。人々は彼をエンラッドの王アレンと見、支配者の息子アレンと見て、これまで誰一ひとり、アレンをアレンとのみ見てくれる人間はいなかった。彼は自分が今、大賢人の目を畏れ…

悼めない消失:『密やかな結晶』 小川洋子著 講談社 1994年

この島から最初に消え去ったものは何だったのだろうと、時々わたしは考える。 「あなたが生まれるずっと昔、ここにはもっといろいろなものがあふれていたのよ。透き通ったものや、いい匂いのすうものや、ひらひらしたものや、つやつやしたもの……。とにかく、…

1988年の未来:『流れよわが涙、と警官は言った』ファリップ・K・ディック  友枝康子訳 ハヤカワSF文庫 1999年(原著1974年)

おれは存在していないんだ、と思った。ジェイスン・タヴァナーなどいないんだ。過去にもいなかったし、これからだって。仕事はどうともなれだ、ただおれは生きたい。もしだれかがあるいはなにかがおれの経歴を消しちまいたいのなら、かまわない。そうすりゃ…

国語の教科書の文章を読もう 『教科書名短編 少年時代』 中央公論新社編 2016年

『そうか、そうか、つまり君はそんなやつなんだな』 p21「少年の日の思い出」より これが読めたので満足。 教科書名短篇 - 少年時代 (中公文庫) 作者: 中央公論新社 出版社/メーカー: 中央公論新社 発売日: 2016/04/21 メディア: 文庫 この商品を含むブログ…

サマセット・モーム『片隅の人生』 天野隆司訳 筑摩書房 2015年(原著1932年)

サンダース医師は何も望まなかったから、誰の障害にもならなかった。彼にとって、金はたいした意味をもたなかった。 患者が金をはらっても、はらわなくても、気にしたことなど一度もなかった。人びとはサンダース医師を博愛主義者と思っている。 しかし時間…

アーシュラ•K.ル=グウィン『壊れた腕環 ゲド戦記』 清水真砂子訳 岩波少年文庫 2015年(原著1971年)

『 影との戦い』に引き続き読みました。 こわれた腕環―ゲド戦記〈2〉 (岩波少年文庫) 作者: アーシュラ・K.ル=グウィン,ゲイル・ギャラティ,Ursula K. Le Guin,清水真砂子 出版社/メーカー: 岩波書店 発売日: 2009/01/16 メディア: 単行本 購入: 1人 クリッ…

チャールズディケンズ『オリバー・ツイスト(上)(下)』 北川 悌二訳 角川文庫 2006年(原著1837-39)

オリバー・ツイスト〈上〉 (角川文庫) 作者: チャールズディケンズ,Charles Dickens,北川悌二 出版社/メーカー: 角川書店 発売日: 2006/01 メディア: 文庫 この商品を含むブログ (14件) を見る オリバー・ツイスト〈下〉 (角川文庫) 作者: チャールズディケ…

上橋菜穂子『月の森に、カミよ眠れ』 偕成社 1991

月の森に、カミよ眠れ (偕成社文庫) 作者: 上橋菜穂子,篠崎正喜 出版社/メーカー: 偕成社 発売日: 2000/10 メディア: 単行本 購入: 5人 クリック: 20回 この商品を含むブログ (19件) を見る 上橋菜穂子さんは、この人の作品が読めるのだから、生きててよかっ…

アーシュラ•K.ル=グウィン『影との戦い ゲド戦記1』 清水真砂子訳 岩波少年文庫 2009年(原著1968年)

影との戦い―ゲド戦記〈1〉 (岩波少年文庫) 作者: アーシュラ・K.ル=グウィン,ルース・ロビンス,Ursula K. Le Guin,清水真砂子 出版社/メーカー: 岩波書店 発売日: 2009/01/16 メディア: 単行本 購入: 6人 クリック: 27回 この商品を含むブログ (29件) を見る…

津村記久子『とにかくうちに帰ります』 新潮文庫 2015

とにかくうちに帰ります (新潮文庫) 作者: 津村記久子 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 2015/09/27 メディア: 文庫 この商品を含むブログ (6件) を見る 「小説というものは問題が起こり、解決されていく過程で主要人物に変容が起こる、その過程 を楽しむも…

大島真寿美『ツタよ、ツタ』 実業之日本社 2016年

ツタよ、ツタ 作者: 大島真寿美 出版社/メーカー: 実業之日本社 発売日: 2016/11/25 メディア: Kindle版 この商品を含むブログ (1件) を見る 琉球王国の名家に生まれ、結婚を機に台湾、それから夫に従って東京や名古屋を転々とした女性の、実話を元にしたフ…

ロード•ダンセイニ『魔法使いの弟子』  荒俣宏訳 筑摩書房 1994年(単行本は1981年)  

ロード・ダンセイニは1900年代から執筆を始め、ファンタジー文学界に影響を与えた人。 魔法使いの弟子 (ちくま文庫) 作者: ロードダンセイニ,Lord Dunsany,荒俣宏 出版社/メーカー: 筑摩書房 発売日: 1994/05 メディア: 文庫 クリック: 18回 この商品を含む…

佐藤多佳子『第二音楽室•聖夜』 文藝春秋 2010年(初出は2005~2010)

小学五年生の秘密基地『第二音楽室』 男女ペア形式の実技テスト『デュエット』 卒業生に贈るリコーダーアンサンブル『FOUR』 いじめられ不登校になった女の子が、インディーズアーティストに焦がれてギターを始める『裸樹』 高校オルガン部生の母との確執『…

ジェイムズ•ティプトリー•Jr『たった一つの冴えたやり方』 朝倉久志訳 早川書房 1987年(初出は1985~86)

16才の誕生日に両親からもらった小型スペース•クーペで銀河に旅立つ少女を描いた表題作 『たった一つの冴えたやり方』 戦役経験後、宇宙で救難の商売を始めた男はかつての恋人と再会する『グッドナイト•スイートハーツ』 戦争か和平か?スリルある異文化交流…

姫野カオルコ『昭和の犬』 幻冬舎 2013

昭和の犬 (幻冬舎文庫) 作者: 姫野カオルコ 出版社/メーカー: 幻冬舎 発売日: 2015/12/04 メディア: 文庫 この商品を含むブログ (4件) を見る 僕は凄い好きな本になったんだけど、魅力を伝えるのが難しく、どう書けばいいのか非常に迷う。 と思って検索した…

エマニュエル•カレール『口ひげを剃る男』 田中千春訳 河出書房新社 2006年(原著は1986年)

口ひげを剃る男 (Modern & Classic) 作者: エマニュエル・カレール,田中千春 出版社/メーカー: 河出書房新社 発売日: 2006/06/08 メディア: 単行本 クリック: 5回 この商品を含むブログ (12件) を見る あることに興味を持ち始めた途端、図ったようにそのこと…

有島武郎『小さき者へ』

有島武郎は、1878年、明治維新から10年後に生まれ関東大震災の起きた1923年に亡くなった白樺派の作家。 今回は岩波文庫の『小さきものへ•生まれいづる悩み』から、 『小さき者へ』は妻を結核で亡くした後に、残された自分の子に対して宛てた文章、 『生まれ…

森博嗣『喜嶋先生の静かな世界』 講談社

最近何読んでる?と聞かれた時に森博嗣って答えておけばほーん、良いセンスだねって何故か上から目線で褒められる、そんなイメージの森博嗣さん。 喜嶋先生の静かな世界 The Silent World of Dr.Kishima (講談社文庫) 作者: 森博嗣 出版社/メーカー: 講談社 …

ダイアナ•ウィン•ジョーンズ『わたしが幽霊だった時』東京創元社 1993年

この人の本は、小学生の頃によく読んでいて、懐かしかったので借りてみた。 当時僕はファンタジーが大好きで、図書館の子供用ファンタジーの棚を片っ端から読み漁っていたのだが、題名に見覚えがあるから、この本も一回多分読んでいる。内容全く覚えてなかっ…

島崎藤村『初恋』 堀辰雄『燃ゆる頬』 尾崎翠『初恋』 アンデルセン『柳の木の下で』 ちくま文学の森 一巻収録

こういう短編集は、一つ一つを記事にするのは面倒だが、全部一まとめに感想を書くのも難しいので、この様に小分けにして書いていくことにした。 今回は、ちくま文学の森『美しい恋の物語』から4編。 多分全部青空文庫かなんかに入っていると思うので、興味…

宮部みゆき 『ICO-霧の城-』(上)(下) 2008年

本について語る前に。 先日、友人に、「今、一日一冊本読もうとおもってるんだ」などと、得意げに語ったのだが、その割にはブログの更新をしていないことに対し、言い訳をする。 その、一日一冊というのは、いわば努力目標であって、達成できればいいな、ぐ…

森見登美彦 『きつねのはなし』 2006年

いつものコミカル、おふざけ、人生を無駄に、全力で謳歌する青春節とは打って変わり、不気味で生々しいワールドが展開されている短編集。 こういう、闇を覗き込ませる様な作品も書けるんですね。流石。 夜に読むと雰囲気出るよ〜 きつねのはなし (新潮文庫) …

今井盛章『トッポ町裁判記』1986年

トッポ町裁判記 作者: 今井盛章 出版社/メーカー: 学陽書房 発売日: 1986/04 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る 図書館でふと目に留まったので借りてみた。思っていたよりは面白い。 検索してもAmazonぐらいしか出てこない、おそらくこれがこの本…

町田 康 『浄土』 2005年

7つの短編をまとめたもの。生々しく馬鹿馬鹿しく何かを描くのが上手い人ですね。 後、松岡正剛うさんくせーなーと前々から思ってたけど、これの解説してるのを読んで確信に変わった。なんだこいつ(笑) 浄土 (講談社文庫) 作者: 町田康 出版社/メーカー: …

森見登美彦『ペンギン・ハイウェイ』(2010年)

気が向いたので読書記録。 今回は、タイトルにある通り森見登美彦『ペンギン・ハイウェイ』(ネタバレ注意。) ペンギン・ハイウェイ (角川文庫) 作者: 森見登美彦,くまおり純 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング) 発売日: 2012/11/22 メ…