寝楽起楽

ネタばれには配慮しない、感想/紹介ブログです。毎週1回更新 +α を目指したかった。

三者三様:『読んじゃいなよ!』 高橋源一郎編 岩波新書 2016年

わたしが大学に入ったのは一九六九年。卒業、ではなく、除籍になったのが一九七七年。その八年の間に、わたしは、数えるほどしか授業に出ませんでした(十回も行ってません)。 なので、ひょんなことから、大学で教えるようになったとき、というか、学生たち…

みうらじゅんフェスティバルに行ってきた話

www.kawasaki-museum.jp ↑これ。 みうらじゅんさんっていまいち何してる人かわかんないんだけど、この企画展見に行っても何やってんだか結局わかんなかった。 内容は、ちっちゃい頃からみうらじゅんが自分で締め切りを作って、恐竜や仏像のスクラップブック…

『鈴を産むひばり』『うづまき管だより』 光森祐樹

・鈴を産むひばりが逃げたとねえさんが云ふでもこれでいいよねと云ふ (『鈴を産むひばり』) ・内海と外海のこゑ聴くときにうづまき管は姉妹と思ふ (『うづまき管だより』 この辺は解釈とかいうより「考えるな、感じろ」の世界なんですかね。 鈴を産むひば…

『ちくま日本文学005 幸田文』を読んで思うこと

小中学生のころに読んだ、 雪が降るのを最初に深々と、と表現したのはどこのどいつだろう。 という、とある小説の出だしを私はずっと覚えている(ずっと恩田陸の『ネバーランド』だと思ってたんだけど、確認したら違った。あさのあつこの『バッテリー』とか…

母国語に潜む嘘:『ことばと国家』 田中克彦著 岩波新書 1981年

私はここに報じられたゲンダーヌさんの行動はもちろんのこと、また、それを支持して、ひろく世に知らせるために記事にした、この文章の書き手にも共感する。(…)それだけに、「ゲンダーヌさんの母国語」にはめまいを感じるほどの当惑をおぼえたのである。 …

ハンター必携:『クマにあったらどうするか:アイヌ民族最後の狩人』 語り手・姉崎等 聞き書き・片山龍峯 ちくま文庫 2014年

CAPCOMが送る大人気ゲームシリーズ、『モンスターハンター』の最新作が発売されて一か月弱が経ちました。皆さん、充実した狩り暮らしを送っていますでしょうか? ゲーム脳が取り沙汰されたのは一昔前のことですが、中にはコントローラーを握りながら、「自分…

エンジョイ勢からガチ勢まで:『マヤ・アステカ不可思議大全』 芝崎みゆき 草思社 2010年 

突然ですが皆さんは、歴史が好きでしょうか? 「受験の時にやったきりで、もう全く覚えていない」 「小ネタは楽しかったけど、人名やら年号やら覚えるのは苦手だった」 おそらくはこうした人が大半で、大人になってから改めて本格的に勉強しようと思っても、…

詩人の感性:『短歌ください』 穂村弘 角川文庫 2014年

穂村弘はまず、純粋な読者として、びっくりさせられたいんだと願っている。と、同時に、どんなに意外な作品でも、そのよさを自分はキャッチすることが出来るという自信と自負があるのだろう。そうでなかったら、毎回毎回「意外な作品」なんていい続けられな…

絶対の三原則:『わたしはロボット』 アイザック・アシモフ 伊藤哲訳 創元SF文庫 1976年

ロボット工学の三原則 一、ロボットは人間に危害を加えてはならない。また何も手を下さずに人間が危害を受けるのを阻止してはならない。 二、ロボットは人間の命令に従わなくてはならない。ただし第一原則に反する命令はその限りではない。 三、ロボットは自…

現場にいる私から/短歌

短歌と四人称についてのこの記事を興味深く読んだ。 たくさんあるわたし、というテーマを見たときいつも思い出すのは、漫画『ムーたち』のファースト自分、セカンド自分、サード自分・・・の概念。 (ムーたち 2巻から スキャン適当でごめんなさい) 同じ時間…

発露する風鈴たち:『ひだりききの機械』 吉岡太朗著 短歌研究社 2014年

両手とも左手なのでひだりがわに立たないとあなたと手をつなげない 利き腕がある機械、ていう発想。しかも両手ともひだり。不器用そう。 ひだりききの機械―歌集 作者: 吉岡太朗 出版社/メーカー: 短歌研究社 発売日: 2014/04 メディア: 単行本 この商品を含…

探し物はなんですか:『青い鳥』 メーテルリンク 堀口大學訳 新潮文庫 1960年(原著1908年)

ふとりかえった幸福 わたしは「幸福」のなかでも一番ふとった「お金持ちである幸福」です。わたしはきょうだいたちを代表して、あなたとあなたの御家族を、わたしたちの終わりのない饗宴にご招待しようと思ってまいりました。あなたはこの世で本当の、「ふと…

150記事突破した記念に未公開の文章を晒す

昨日の縄文ZINEの紹介で本ブログの記事数がめでたく150記事となりました。 中学~高校にかけて3つ4つブログを作っていた記憶がありますが、いずれも数記事更新しただけでやめてしまっていたので、この数は自分にとってはちょっとした記録と言って良い。150も…

震わせろ縄文魂:『縄文ZINE 土』 縄文ZINE編集部 2018年

新しいことばかりが発見じゃない。自分にとって勇気が湧くような古い映画だって、年の離れたお兄ちゃんが教えてくれた80年代のUKロックだって、もちろんもっともっと古い時代、歴史や縄文時代のことも誰かの大切な発見となることだってあるだろう。 レコード…

自己啓発じゃ終わらない:『アルケミスト 夢を旅した少年』 パウロ・コエーリョ著 山川紘也・山川亜希子訳 角川文庫 2004年(原著1988年)

「おまえさんはわしにとって、本当に恵みだった。今まで見えなかったものが、今はわかるようになった。恵みを無視すると、それが災いになるということだ。わしは人生にこれ以上、何も望んでいない。しかし、おまえはわしに、今まで知らなかった富と世界を見…

伝承の創造:『貴婦人ゴディヴァ:語り継がれる伝説』 ダニエル・ドナヒュー著 慶應義塾大学出版会 2011年

どんな人でも貴婦人ゴディバについては耳にしたことがあるだろう。ほとんどの人にとって、彼女の名前を聞いて思い浮かべるイメージは、馬に乗った裸の女性である。数は少ないが、ゴディバの馬乗りの話と聞いて、「ああ、こういう話でしょ」といえる人たちも…

生きててももう居ない:『アンネの童話』 アンネ・フランク 中川李枝子訳 酒井駒子絵 文春文庫 2017年

夕方八時、ドアがまた開いて、あの小柄な娘がもう一度おっきいバスケットをふたつ腕にかかえて出てきます。娘は小さい家々のまわりにある、あちこちの野原に行きます。遠くに行く必要はありません。 野原ではすぐかがんで花をつみます。大きい花や小さい花、…

明けまして

浅原ナオトさんの『彼女が好きなものはホモであって僕ではない』書籍化決定! kakuyomu.jp めでたいめでたいと一人で喜んでいたのですが、ふと自分のことでもないのにうれしいのは何故?という疑問が湧いたので、今回はそこから考えたことについて書きます。…

沈む館からの脱出:『遠い声 遠い部屋』 トルーマン・カポーティ 河野一郎訳 新潮文庫 1955年(原著1948年)

ポーチの上の3人は、木版画にきざまれた姿のようであった――りっぱな枕の王座にすわった老人、主人の膝に寝そべり、その足元にぬかずく小さな召使を、溺れゆく光の中でじっと見守っている黄色い愛玩動物、そして祈祷を捧げるかのように、ひときわ高くさし上げ…

現の夢か、夢の現か:『シルヴィーとブルーノ』 ルイス・キャロル著 柳瀬尚紀訳 ちくま文庫 1987年(原著1889年)

――するともう一度どっと歓声が沸きあがり、とびきり興奮していたひとりの男が帽子を空中高く放りあげ(ぼくにわかった限りでは)こう叫んだのだった。「副総督閣下に万歳だ!」ひとり残らず歓声をあげたものの、それが副総督のためなのか、そうでないのかは…

宇宙

人類は小さな球の上で 眠り起きそして働き ときどき火星に仲間を欲しがったりする 火星人は小さな球の上で 何をしてるか 僕は知らない (或はネリリし キルルし ハララしているか) しかしときどき地球に仲間を欲しがったりする それはまったくたしかなこと…

シンプルな結論

捕鯨を取り締まろうとする人たちには昔から疑問を感じている。 豚や牛や鳥や魚を人は食べる。であるならば、鯨だってイルカだって食べたって別に問題はなかろう。これはありふれた論ではあるが、それがゆえに有効性も高い。 捕鯨反対論の最も基本の根拠は、…

羽生善治という神話

藤井聡太4段がデビューから29連勝、そして羽生さんが永世7冠達成と2017年の将棋界は偉業の時代であったわけだが、その輝かしい業績の影の隅の1ドットにも満たない欠片の中で、私はスマホアプリ「ぴよ将棋」の放つ8番目の刺客ぴよ介に無事八連敗を喫した。 ↑…

不調和の中の調和:『尼僧とキューピッドの弓』/外れてる人達:『犬婿入り』 多和田葉子

違いますよ日本人ですよ、と道子は 仕方なく答えた。ああトヨタか、と言って最初の男が艶めかしく笑った。わたしはトヨタなんかじゃない、と思ったとたんからだが小さな自動車になってしまったような気がした。 何しろあいつは頭が”トラビ”だから、とかつて…

現在形の過去を生きる:『記憶/物語』 岡真理 岩波書店 2002年

物量にものを言わす米軍に対し、弾薬も底をついた日本兵は、敵軍を驚かすために英語で叫び声を上げながら突撃した。元大尉は語る。突撃してきた日本兵たちのひとりがこう叫んだのだという。 「ヘル・ウィズ・ベイブ・ルース!」(Hell with Babe Ruth「ベイ…

掛け違え×掛け違え:『婚礼、葬礼、その他』/結局皆しんどい:『浮遊霊ブラジル』 津村記久子 

板東早矢香でスガ私ガ見エマスカ?食堂でハ、アりガとうございマした。 「ま」「は」の下の方とか「す」の中ほどのくるんとなったところ、「え」や「あ」のぐねぐね感が苦手だったんだろう、と私は思った。 鏡を見ながら、眉描きペンシルで自分の顔に字を描…

ここにもそこにも人生

アイフォン6で画像を読みこもうとしたが、通信制限がかかっていたため中々厳しい戦いを強いられていた。 白線が等速に移動しそれが小さな丸をつくる「読みこみ中です」のサインのまま画面は動かず、私には先頭をひた走る彼に向かって「がんばれ、がんばれ」…

BAD ENDが多すぎる:『美しい恋の物語 ちくま文学の森1』 安野光雅他編 筑摩書房 1988年 

部屋の中に明りがさした。ボヘミアンネクタイがマッチを擦ったのだ。それから火をランプに映した。ボヘミアンネクタイの上半身が障子に映った。鳥打帽を脱いだ手巾を取った。それは間違いもなく僕の妹の横顔だった。 ……いや決して美人ではなかった。ただ月光…

たわだ語の思想:『エクソフォニー 母語の外へ出る旅』 多和田葉子著 岩波現代文庫 2012年

人間だけではなくて、言語にもからだがある、と言う時、わたしは一番、興奮を覚える。日本語にも、たとえば、文章のからだ、「文体」という言葉がある。文章はある意味を伝達するだけではなく、からだがあり、からだには、体温や姿勢や病気や癖や個性がある…

無貌の意思:ジャック・ロンドン「萎えた腕」他感想 雑誌『MONKEY』VOL7より

「我らは知っている。父親から、そのまた父親から一部始終を聞いた。彼らはまるで子羊のようにやってきた。もの静かなしゃべり方をした。連中がもの静かにしゃべったのも当然だ。当時は我らのほうが数が多く、強力で、すべての島を支配していあたのだから。…