寝楽起楽

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有島武郎『小さき者へ』

有島武郎は、1878年明治維新から10年後に生まれ関東大震災の起きた1923年に亡くなった白樺派の作家。

今回は岩波文庫の『小さきものへ•生まれいづる悩み』から、

小さき者へ』は妻を結核で亡くした後に、残された自分の子に対して宛てた文章、

『生まれ出づる悩み』は実在の人物をモデルにした、平民生まれだが芸術の精神を解し画家を志すも、境遇ゆえに故郷に戻って漁師にならざるを得なくなった青年との交流を書いた小説になっている。

 

 

小さき者へ・生れ出づる悩み (新潮文庫)

小さき者へ・生れ出づる悩み (新潮文庫)

 

 

 

積んでいる本をいい加減消化しようと思って読み始めたものの一冊目で、実を言うとこれは一度既読済みなのだが、読み通したかどうかの自信が持てなかったので再読。

 

小さき者へ』は子に対する熱い情念で書き上げられている。1p目から

お前たちは去年一人の、たった一人のママを失ってしまった。お前たちは生まれると間も無く、生命にいちばんだいじな養分を奪われてしまったのだ。お前たちの人生はそこですでに暗い。

とか、

お前たちは不幸だ。回復の途なく不幸だ。不幸なものたちよ。

とかいっちゃう。 普通子供にこんなことは言わないし言えないと思う。

こんな調子から始まり、後は妻を失った悲しみと子に対する思いがないまぜになった文章がずっと続く。

 

読みどころは思いの丈が詰まったその文章そのもの。

なにしろお前たちは見るに痛ましい人生のめばえだ。泣くにつけ、笑うにつけ、おもしろがるにつけ、さびしがるにつけ、お前たちを見守る父の心は痛ましく傷つく。

その全てに、子供たちに母を亡くしたという一点で持って不幸な人生を送ることへの感傷が流れている。だが決してそれだけで終わっているわけではなく、最後の行け。勇んで。小さき者よ。で終わる力強い段落は一読の価値は十二分にあり。

 

一度目に読んだ時は親の事について色々と考えていた時期だったこともあり、こんなに子を思う親がいるもんなのかと衝撃を受けた覚えがあったが、今回はある意味では凄く冷めた目線で読んだ。 

 

『生まれいづる悩み』についても書こうと思ったが、今までの記事と比べて長くなりそうなのでとりあえずやめておく。いつか書く。