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福岡伸一『世界は分けてもわからない』 講談社 2009年

 

世界は分けてもわからない (講談社現代新書)

世界は分けてもわからない (講談社現代新書)

 

 

 

生物と無生物のあいだ』で一躍有名になった先生が、その続編のような立ち位置のものとして、雑誌連載していたのを一つにまとめた本。

 

前作は、人間の体はエントロピー増大の法則に対抗するために、「分解」と「合成」の絶え間ない動的平衡の中にあるということが話の中心だったが、今作はそれから更に発展して細胞分野のみならず絵画や写真などから「全体とは部分の総和以上の何かであり、その何かは流れ(=部分と部分の常に移り変わる関係性)である」とし、「世界に部分はなく、輪郭線もボーダーもない」ことを示しながら、それでもなお世界を分けつづける意思を静かに書き記して終わる。

 

その考えそのものはそれほど目新しいものでもないけれど、分子生物学者としての深い経験と、他分野にも精通する学識で持って書かれた文は非常に読ませるところがあり、これは有名になってくれてよかった人だと思う。

 

ただ事実そのものを教科書的に書くことなら知っている人になら誰にでも出来ることで、福岡先生はそれをしっかり自分の血が通う文章にしている。これが出来る人になりたいですね。