目を伏せて空へのびゆくキリンの子 月の光はかあさんのいろ
- 作者: 鳥居
- 出版社/メーカー: KADOKAWA/アスキー・メディアワークス
- 発売日: 2016/02/09
- メディア: 単行本
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○内容
両親離婚→目の前で母が自殺→養護施設で虐待→拾った新聞で文字を覚えて短歌を詠むようになった詩人の歌集
○考察・感想
凄くよい。
母自殺以前の幸福な時代/自殺後の養護施設での生活/その後の生活、の主に3つにカテゴライズ出来る。
「生き辛いと感じる人は短歌を詠もう」という姿勢が全体に通低しており、ために「良い短歌を作る」などといった変な力みもなく、それが帰って一つ一つの短歌のそのままの味わい深さを出している気がする。
また上に書いたとおりの人生を送っている分、特に捻らずとも詠まれる題材がそもそも凄絶であり、読み手を黙らせるパワーを感じた。
以下は特に気に入った歌。
「精神科だってさ」過ぎる少年は大人の声になりかけていて
白々となにもかなしくない朝に鈍い光で並ぶ包丁
大きく手を振れば大きく振り返す母が見えなくなる曲がり角
爪のないゆびを庇って耐える夜 「私に眠りを、絵本の夢を」
お月さますこし食べたという母と三日月の夜の坂みちのぼる
噴水は空に圧されて崩れゆく帰れる家も風もない午後
母はいま 雪のひとひら地に落ちて人に踏まれるまでを見ており
永遠に泣いている子がそこにいる「ドアにちゅうい」の指先腫らし
さかさまに世界を映す水たまりまたいで夏の終わりへ向かう
海越えて来るかがやきのひと粒の光源として春のみつばち
海底にねむりしひとのとうめいなこえかさなりて海のかさ増す
ほんとうの名前を持つゆえこの猫はどんな名で呼ばれてもふりむく