「おまえさんはわしにとって、本当に恵みだった。今まで見えなかったものが、今はわかるようになった。恵みを無視すると、それが災いになるということだ。わしは人生にこれ以上、何も望んでいない。しかし、おまえはわしに、今まで知らなかった富と世界を見せてくれた。今、それが見えるようになり、しかも、自分の限りない可能性に気が付いてしまった。そしておまえが来る前よりも、わしはだんだんと不幸になってゆくような気がする。なぜなら、自分はもっとできるとわかっているのに、わしにはそれをやる気がないからだ」
(中略)
たぶん世の中には、羊に教えてもらえないことも他にたくさんあるのだと、少年は老いた商人を見ながら思った。羊たちが実際にすることといったら、食べ物と水を探すことだけだ。そしておそらく、彼らが僕に教えてくれたのではなく、僕が彼らから学んでいただけなのだ。
「マクトゥーブ」と商人が最後に言った。
「それは、どういう意味ですか?」
「これがわかるためには、アラブ人に生まれなければならないよ」と彼が答えた。「しかし、おまえの国の言葉で言えば、『それは書かれている」という様な意味さ」
そして、彼は水ギセルの石炭の火を消しながら、少年に、クリスタルのグラスでお茶を売る商売を始めてもいい、といった。時には、川の流れはもうとめられないこともあるのだ。
(本著p69-70)
この商人さんをもっと掘り下げてほしかった。
アルケミスト―夢を旅した少年 (角川文庫―角川文庫ソフィア)
- 作者: パウロコエーリョ,Paulo Coelho,山川紘矢,山川亜希子
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 1997/02/01
- メディア: ペーパーバック
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〇あらすじ
羊飼いの少年がピラミッドに行けという前兆に導かれて金貯めながら旅をして錬金術師の弟子になってある日絶対絶命の最中自分も大いなる魂の一部なんだと悟りを開いて宝物を見つけてハッピーエンド
〇感想・考察
ありがち→でもちょっと良いとこもある→でもありがち→でもこのへんちょっと面白い、ていうループ。全体を貫くのが「迷わずいけよいけばわかるさ」とか「さすれば道は開かれん」とかそういう類のもので、そこにちょくちょく入ってくるスパイスで何となく読んじゃう。
ラスト付近の、嵐を呼ぶシーンはとても解放感があってよかった。特に太陽に呼びかけた時の、「大いなる魂も惑う」という一節には考えさせられるものがある。自分を導いてくれるものにもブレがあるんだ、っていう気付きは単純だけど、中々思い至れない部分で、ちょっと普通の自己啓発本とはこの辺違う感じがした。最終的に「すべてを書いた手」が出て来てドーンときてバーンでなんかよくわかんないけど勢いで凄い!ってなるあたりもちょっとトリップしてて良い。
とはいえ自分の「普通の自己啓発」へのイメージは完全に偏見なので、この本がそこらと比べてどうなのかは実際はよくわかんないんですが。
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ついでにこれも紹介しときます。まだ全部読んでないけど面白い。自己啓発の流行について研究した本です。特に僕みたいな、あれらに偏見のある人々にお勧め。良い小説・漫画が読みたい、というのと同様に、ちゃんとまっとうな需要があるからちゃんと売れてるんだな、ということがよく分かる。