ふとりかえった幸福 わたしは「幸福」のなかでも一番ふとった「お金持ちである幸福」です。わたしはきょうだいたちを代表して、あなたとあなたの御家族を、わたしたちの終わりのない饗宴にご招待しようと思ってまいりました。あなたはこの世で本当の、「ふとりかえった幸福」の中でもことにすぐれたものたちと同席することになりましょう。失礼ですが、その中のおもだったものたちをご紹介いたしましょう。これがわたしのむこの「地所持である幸福」です。ナシのようなおなかをしております。これが「虚栄に満ちたりた幸福」で、このようにまるまるとふくれかえった顔をしております(「虚栄に満ち足りた幸福」はえらそうにうなずく)それからこれは「かわかないのに飲む幸福」と「ひもじくないのに食べる幸福」で、ふたりとも足はマカロニなんです。…
(本著p155-156)
結構毒交じりで想像してたのと違った。
- 作者: メーテルリンク,Maurice Maeterlinck,堀口大学
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1960/03/22
- メディア: 文庫
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○あらすじ
チルチルとミチルとイヌとネコと火と水とパンと牛乳と砂糖と光が青い鳥を求めて旅に出る
○感想・考察
皆で仲良く旅するんだろうと思いきや、青い鳥を人間が手にするとすべてを支配できるようになるとかで、実際はチルチル・ミチル・イヌ・光vsこっそり妨害をするその他、という構図になってて驚き。
光 人間は、この世ではたったひとりで万物に 立ち向かってるんだということが、よくわかったでしょう。
(本著p127)
この台詞を光に言わせるあたりとか「うおー、西洋理性中心主義~~~」と思ってしまった。
訳の問題かも知れないと思って調べたらTu vois bien que l’Homme est tout seul contre tous, en ce monde、となってて原文フランス語かよ状態なんですが、でも単語の意味調べた印象だとこれ以上ない訳っぽい。
ミチルはおうち帰りたいっていって基本泣いてるんだけど、それに比例してチルチルの豪胆さというか、そもそも青い鳥を探してるのも見知らぬ妖女に頼まれただけなのに、やたら図太く頑固に鳥を追い求めてるのが怖い。読む前のかすかな知識から、「心優しい子供達が精霊たちと仲良くしあわせを探す話」だと思ってたので、そのギャップもあってミチルのやばさばかりに目が行く。
夜 (…)だれだって、いいかい、だれだってこの扉をほんの髪の毛一筋でも開けてみたものは、もう生きて日の目を見ることは出来ないんだからね。それこそ人が考え得るどんなすごいもの、地上でみんながいっているどんな恐ろしいものを持ってきても、この洞穴の中の一番つまらないものとだって比べ物にもならないんだよ。人間の目が、この名づけようもない底なしの淵をのぞいたが最後、そいつはとびかかってくるんだよ。それでも、どうしてもお前はこの扉をあけるといいはるなら、もうわたしにはどうしようもないから、ちょっと待っておくれ。わたしはあの窓のない塔の中に隠れるよ。ここのところはお前よくわかっておくれ。よく考えてくれないと困るよ。
(ミチルはこれを聞くと、なきながら、恐ろしさのあまりわけのわからない叫び声をあげて、チルチルを引っ張っていこうとする)
パン (歯をがたがたさせながら)坊ちゃんどうかやめてください。(ひざまずいて)わたしたちをかわいそうだと思ってください。お願いです。「夜」のいうことがもっともだとお思いになりませんか。
ネコ あなたはあたしたちみんなを犠牲にするんですわ。
チルチル ぼく、どうしたってあけなきゃいけないんだ。
(本著p95)
まじで?何が君をそんなに突き動かすの?
でも子どもってこういうとこあると思う。
「いまなんじ?」「今三時だよ」と答えれば、「なんで?」とさらにおさなごは聞く 内山佑樹
(この前の日経の短歌欄から)
そこで「なんで?」と聞かれると、まるで僕等はモノの本質そのものを聞かれたような気がしてハッとするわけですが、当のおさなごはぽかんとアホ面だったりするんです。ほんとになんでか疑問に思って聞いたわけでもなく、ただ「なんで?」って聞けるから聞いた、ぐらいなもんで、それ以上のことは何も考えてない。だから、一生懸命大人が説明しようとしても、もう飽きて全く聞いてないというような状況が起こる。
だからチルチルも多分勇気があるとかそういうの以前に、多分なんも考えてないんじゃないかと思うんですよね。
以上の理由で主人公勢にはいまいち感情移入しなかったんですが、描写はホントに綺麗で良かった。特に<未来の王国>は最高ですね。「人間の寿命を三十三種類のばす薬」、「だれも知らない光」、「翼もなしに鳥みたいに空を飛ぶ」、「月の中に隠れた宝を見つける」、これから世の中に生まれ行く未来の子どもたちが、それぞれ世の中に対し新しいものをもたらす、という発想と、それを純粋に彼らが誇りに思っている感じがかわいらしい。
あと堀口大學の訳がまた良い。上手い。でも「寺」って単語が出てきたときは笑っちゃった。教会でしょ。
総括すると、いわゆる古典名作も読んでみるとやはしイメージが全然ちがうと思いました。
以上。