寝楽起楽

ネタばれには配慮しない、感想/紹介ブログです。毎週1回更新 +α を目指したかった。

全文情愛:『恋文の技術』 森見登美彦 ポプラ文庫 2011年

四月九日

 拝啓

 お手紙ありがとう。研究室の皆さん、お元気のようでなにより。

 君は相も変わらず不毛な大学生活を満喫しているとの由、まことに嬉しく思います。

 その調子で、何の実りもない学生生活を満喫したまえ。希望を抱くから失望する。大学という不毛の大地を開墾して収穫を得るには、命を懸けた覚悟が必要だ。悪いことは言わんから、寝ておけ寝ておけ。

 俺はとりあえず無病息災だが、それにしてもこの実験所の淋しさはどうか。

 最寄り駅で下車したときは衝撃をうけた。駅前一等地にあるが、目の前が海だから、実験所のほかは何もない。海沿いの国道を先まで行かないと集落もない。コンビニもない。夜の無人駅に立ち尽くし、ひとり終電を待つ俺をあたためてくれる人もない。流れ星を見たので「人恋しい」と三回祈ろうとしたら「ひとこい」といったところで消えてしまった。どうやら夢も希望もないらしい。この先、君が何かの困難にぶち当たった時は、京都から遠く離れた地でクラゲ研究に従事している俺のことを思い出すがよい。

(本著p11)

 

 森見さんなのに主人公が京都にいない!!!!

 

 

([も]3-1)恋文の技術 (ポプラ文庫)

([も]3-1)恋文の技術 (ポプラ文庫)

 

 ↑80件以上リンク貼られてるとは。愛されてるなあ。

 

〇内容要約

 能登半島に研究のため飛ばされた悶々系大学生が友達と先輩と生徒と妹と森見登美彦(!)に手紙を書きまくる

 

〇感想

 実はこのブログで一番最初に読書感想をあげた本は森見さんの『ペンギン・ハイウェイ』であるということもあり、なんとなく勝手に親近感を抱いている。

 

 友達に宛てた章、先輩に宛てた章、という様に送り先ごとに章が分かれており、かつ手紙を送った期間は重なっている。そのため、ここで出てきたこれはあれか、みたいな行きつ戻りつするパズル的な楽しみもあるが、しかしそれをやったところで中身がクサレ大学生の文章というしょーもなさがどうしようもなく森見さん。

 

 憎めないキャラの造形の仕方は相変わらずピカイチ。

「みんなから手紙が届くぐらい慕われていて大変である」みたいなこと言ってるとこでは、「文通始めてるのほぼほぼお前からじゃねーか」と読者全員が突っ込みをいれたことだろう。

この人の作品に出てくるような生活に憧れて京都に旅立っていった人たちを何人も観測しているが、それぐらい影響を与えてしかるべき人物の立たせ方だと思う。

僕は学力が足りんくてクサレ大学生にすらなれんかった。

 

 作中でガンガン森見登美彦ご本人が登場してくるのに最初は笑ってたんだけど、ふとそこから一つ私的に重大な発見をした。

 

 『恋文の技術』に出てくる人物の大半は森見登美彦さんのファンである。彼の作品を読んでない人も出てくるが、しかし読んだら絶対にはまるようなタイプであろうと察する。

 

 つまり「作中の登場人物がその本を読んだら面白いと感じる率100%」ということだ。しかしこれ、実は森見さんに限らず他のいろんな作家さんたちに当てはまる法則なんじゃないだろうか?

 

 小説において「キャラが先か、物語が先か」あるいは「小説と現実の違いは何か」、「作者と作品は別物か」みたいな論争はしばしば行われる。

それをこの法則を踏まえて考えてみると意外とあっさり解決が出来そうな。そうでもないような。

 

 考えが全然まとまっていないのでここでは詳しく書かないし、どこかで詳しく書く予定があるかといわれると別にないけど、感覚的にはちょっと面白い話になりそうな気がする。

 

 以上。