私の父の、酔ったときの口癖は「そういう世界」です。そのときのポーズも決まってます。親指を突き立てない「グー」サイン。ハタから見れば握りこぶしに力を入れているだけのような状態で、元気に「そういう世界!」 。どういう世界?私の統計によると、言葉に煮詰まったとき、自分が何を話していたかわからなくなったとき、人の話を聞いていなかったときなどに使います。例えば、「(父・泥酔)いやぁ、僕が言いたいのはね、僕は、トルコが好きっ」「(私たち・素面)トルコが好き?なんで?」「(父・泥酔)……そういう世界っ」
(p56)
使いてえ~~。
〇内容
「サラバ!」で直木賞受賞、その文庫化で再び話題になっている西加奈子さんの、若さ溢れるエッセイ集。
〇感想
個性豊かな人物が続々登場。
部長のY君。中学のときは「古墳クラブ」に所属、校庭の隅で思い思いの古墳を作り、先生に「これだと、石室はどこに置くのかな?」などと指摘され、最初からやり直すという、大変有意義で、人生の役にしかたたない経験をしています。
(p61)
こんなん笑うしかないじゃん。石室にこだわって作り直しとか、ちゃんと真面目に部活動してるとこがほんと良い。
そういう人物をちゃんと拾い上げて笑いに変えることが出来る、西さん自身は恐らくはとても素直な人である。
だからこそ西さんの気持ち、「楽しませたろう笑かしたろう」というサービス精神は衒いなく文章からそのまま伝わってくるし、また同時に「こんなんだけど自分、ほんとにこれでいいん だろか?」的な思考も同時に駄々洩れで、人間性の複雑さ的なものも一緒に味わえてしまうという、大変お得なエッセイ集。
「サラバ!」まだ読んでないんだけど、この人の書いた作品なら読んでみたいと思わせてくれるような一冊でした。
以上。