寝楽起楽

最近は頑張って読書感想ブログにしてます。

                ネタバレには配慮しない感想ブログです。

『絶滅寸前季語辞典』『絶滅希求季語辞典』 夏井いつき ちくま文庫

 

 読んでも役に立たないことにかけては、右に出るものはないかもしれない。が、もともと俳句なんぞは役に立つはずもないものであって、むしろ役に立たないものとしての誇りを胸に、堂々と詠まれ続けていくのが俳句だとも思っている。

(『寸前』、まえがきから) 

 

 

  潔い心意気。

 

 

絶滅寸前季語辞典 (ちくま文庫)

絶滅寸前季語辞典 (ちくま文庫)

 

 

 

絶滅危急季語辞典 (ちくま文庫)

絶滅危急季語辞典 (ちくま文庫)

 

 

○内容

 俳人ですら「は?なんだこの季語?」ってなるような見たことのないものや、日本の文化として消滅しそうな季語などを中心に、例句紹介したり自分で詠んだり俳句募集したりした

 

○感想

 2語目で「例句ない場合自分で詠まんといけないの?」と絶望し、わずか4語目にして「もうこんな季語絶滅しても良くない?」とのたまう、筆者の味の良い性格。

 

 「季語を蘇らせよう」と意気込んでいるわけでもなく、難しいことは一切なしで進んでいくため、私のような季語無知もとても気軽に読み進めていける。

 

 興が乗ってるときの筆の進みようがまた素晴らしい。

特に「磯遊」「傀儡師」のような季語を切欠にして筆者が古い記憶を呼び覚ますシーンなどは格別で、そうした記憶と結びついている俳句にはやっぱり良いと思えるもんが多い。

 

 実を言うと、私が子供のころ、我が家には毎年「傀儡師」が来ていた。もっとも、そんな呼び名ではなくて、「えべっさんのおっちゃん」とか「人形廻しのおちゃん」とかと呼ばれていた。いつも、真っ黒なでっかい木箱を背負ってくるテカテカしたおでこを持った禿のおっちゃんだった。

 えべっさんのおっちゃんが近くに来たらすぐに分かる。唄を歌いながら歩いてくるからだ。広い土間のある上がり框に腰掛け、おっちゃんは最初の振る舞い酒をさも美味しそうにきゅーんと飲む。祖父は、玄関の間にどしりと坐り、私と妹は祖父の両側にちょこんと座る。広い土間には近所の人達が集まっている。

(『寸前』、p341)

 

 また絶滅してると思われていた風習が、読者からの投稿で地方ではしっかり息づいているのが判明するということも頻発する。(「毒消し売」とか)都会でホタルを探せ!とか、そんなドキュメンタリー観てる気分にもなれる。

 

 同じく俳人の堀本祐樹さんが、別の本で年々季語は減少傾向にある、という風に仰られていた。

 確かに本書を読むと、風習・季節感に裏打ちされている季語が圧倒的に多く、エアコン・パソコン全盛の時代にあってはもはや実感のないようなものばかりで、廃れていくばかり、というのは非常に納得できたところ。

 

 この本を面白く読めたのも、全く知らないようなことばかり出てくるから、ということもある。

 がんがん消えてく言葉を思うとやや寂しい気もするが、まあしゃーないわな。エアコン涼しいしな。現に今涼しくパソコン叩いてるし。

 

 

 こっからは折角夏なので、本書に出ていた夏の俳句から良いと思ったものを紹介していきます。

 

・あつぱつぱ正義が勝つたりする映画 大塚めろ

 あっぱっぱ=夏服(三夏/人事)。語感の雰囲気を上手く言い表していると思う。

 

・浮いて来いだけが浮かんでゐる盥 夏井いつき

 浮いて来い=入浴や行水のときの、子供の玩具(三夏/人事)。盥に浮かばせるものなんてそれこそ人形ぐらいしかないはずなのに、「だけ」と使っているところが良く効いている。取り残されたような不穏な雰囲気を見ることも出来るし、夏の名残のような物寂しさとも取れる。

 

・穀象の壊れかけては歩き出す 大塚桃ライス

 穀象=コクゾウムシ(三夏/人事)。実家が米農家の人とかに聞くとまだまだバリバリ現役らしいけど、私は一回も見たことない。にも関わらずその歩き方を想像させうるぐらいの力を持った俳句(思わず検索してしまったが、人によっては閲覧注意の動画が多かった)。

 

・晒井の喧噪を聞く二階かな 夏井いつき

 晒井(さらしい)=井戸の水をくみ上げて、中のゴミを掃除する共同作業(初夏/人事)。古き良き共同体の雰囲気。

 

・ごんごんと芒種の水を飲み干せり 夏井いつき

 芒種(ぼうしゅ)=二十四節季の一つで、稲や麦の種をまく時期(仲夏/時候)。

「ごんごん」と「ぼうしゅ」とが上手く噛み合い、飲み干すという動作に自然とつながれてるように思える。

 

・鮎もどきたれも心配してくれぬ 杉山久子

 鮎もどき=あゆに似てるナマズ科の淡水魚(三夏/動物)。これが正式名称。可哀想。

 

・母とゐてセルは胸よりほころびぬ 阿南さくら

 セル=毛織物でつくった初夏用の単衣(初夏/人事)。ファッション系の季語も消えていきやすいジャンルの一つだろう。

 

・毒流しして一服という時間 夏井いつき

 毒ながし=毒汁を流して浮いてきた魚を取ること(三夏/人事)。漁師のふてぶてしさが垣間見えるような一句。

 

・足跡のなきを首途に夏の霜 上島鬼貫

 夏の霜=月の光が街に当たって白くなるのを霜にたとえたもの(三夏/天文)。かどでっていうのがいまいちよくわからんか?でも綺麗な句。

 

・くれなゐを籠めてすゞしや花氷 日野草城

 花氷(はなごおり)=氷の中に草とか金魚(!)とか入れたもの(晩夏/人事)。いかにして夏を気持ちよく過ごすか、苦心してたんだなあということがよく伝わる。

 

 

 前半五句は『寸前』から、後半五句は『希求』から取りました。

 

 気づけば7月は一回も更新しないまま8月にはいってしまってましたが、まあこういうこともありますわな。

 

以上。