この本は要するに、いわゆる「英文学」の名作短編を集めたアンソロジーである。当翻訳者が個人的に長年敬意を抱き、何度か読み直してきた作品が並んでいるというだけでなく、これまで刊行された多くの英文学傑作短編集などにも繰り返し選ばれてきた名作中の名作ばかりである。(中略)一般に――と、乱暴な一般論を展開すると――米文学は遠心的であり英文学は求心的である。キャッチコピー的に言うと米文学は荒野を目指し英文学は家庭の団欒に向かう。
(あとがきより)
柴田さんの訳でこんだけの作家の読めるとか贅沢すぎない。
ブリティッシュ&アイリッシュ・マスターピース(柴田元幸翻訳叢書) (Switch library)
- 作者: 柴田元幸
- 出版社/メーカー: スイッチパブリッシング
- 発売日: 2015/07/07
- メディア: 単行本
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○あらすじ
食べたらいいんだよ:「アイルランド貧民の子が両親や国の重荷となるを防ぎ、公共の益となるためのささやかな提案」 ジョナサン・スウィフト(1729)
死ねない:「死すべき不死の者」 メアリー・シェリー(1833)
虫の知らせ:「信号手」 チャールズ・ディケンズ(1866)
街で一番とおといもの:「しあわせな王子」 オスカー・ワイルド(1888)
願いをかなった不幸:「猿の手」 W・W・ジェイコブズ(1902)
子どもは箱の中:「謎」 ウォルター・デ・ラ・メア(1903)
共犯者:「秘密の共有者――沿岸の1エピソード」 ジョゼフ・コンラッド(1910)
応報:「運命の猟犬」 サキ(1911)
幼く燃える虚栄:「アラビー」 ジェームズ・ジョイス(1914)
失せない鎖:「エブリン」 ジェームズ・ジョイス(1914)
背中を押す見えざる手:「象を撃つ」 ジョージ・オーウェル(1936)
家族の情景:「ウェールズの子供たちのクリスマス」 ディラン・トマス(1955)
以上12編所収。
○考察・感想
英文学は家族の団欒に向かう、とか書かれてるけど、正直全然そんな感じなのかどうかはつかめんかった。
アイルランド、ウェールズ、スコットランド、イングランドとそれぞれどうも流れがあるっぽくて、この本では今いちその全容は明らかにされていない気がする。よくもわるくもつまみ食いて終わってる感じ?
柴田さんもどちらかというと米文学の人だし、まあこれについては入門書っていうカテゴリーなんだと思う。
・「アイルランド~」
真っ黒なジョークとはこういうものをいう。食人食肉。小説じゃないっぽさもまたよい。
・「死すべき不死の~」
解説の通り、不死の存在を小説で構想しはじめた、その最初期の作品の強さずるさが売り。錬金術、とかが普通に現実と地続きのものみたいに登場しているのがなんともいえず昔。
・「信号手」
一番完成度が高いともいえるし、一番普通の展開といえば展開なので面白みがないといえばなかった気がする。
・「しあわせな王子」
正直アンデルセンが書いたのかと思ってた。改めて読むと王子の聖人ぶりにはちょっと引くぐらいの凄みがある。それに付き合うツバメが人間くさくめちゃめちゃいい奴。
・「猿の手」
これ結構怖かった。生き返った息子は果たしてどんな姿をしていたのか。
・「謎」
謎加減がめちゃくちゃ好み。デラメアはお気に入りリストに登録しておく。
どんどん箱に入っていく子どもたち、たった一人残されるおばあちゃん、こういう現実なのか妄想なのか曖昧になる感じのもののほうがすき。
・「秘密の共有者」
こんな上司だと船員ものすごく気づかれするだろうな、という視点で読んでしまった。面白いは面白いけど。
・「運命の猟犬」
全くの他人に見間違えられるところから、何から何まで定まってたんだなって思って読み返すと結構悲しい。本人もなんとなくそれを自覚してるぽいところもなんとも。
・「アラビー」
これはトラウマあるあるだ・・・。最後の一文になんもかんも詰まってる。
・「エブリン」
結局人はどこにもいけないんだなって。米文学なら船に乗って旅たったのだろうか。これと「アラビー」と両方書いてるジョイスさんの性格はやや歪んでそう。面白いけど。
・「象を撃つ」
オーウェルの好きそうな題材。スタンフォード監獄実験とか、もし生きてたらとっても喜んだんじゃなかろうか。
・「ウェールズの子どもたちの」
子どもの話すイメージに乗れるか乗れないか、という話。自分は無理でした。
おんなじところから米文学版も出てるらしいんだけど、それは見つけられなかったんだよねえ。読みたいんだが。
年代順に並べられてみると、なんとなくしっかり小説として読めてくるのが初期2作品以降っていうのがちょっと面白かった。サンプル数少ないからなんともいえんが。