娘の方は父親を名前で呼びつけにするけれども、逆に父親の方は自分の娘を「お宋」とその名で呼んだことがない。用事のある時は決まって「オーイ」と呼ぶ。返事がなくてもやっぱりまた「オーイ」と呼ぶ。お宋が家に居ないのにいつまでも「オーイ」「オーイ」と読んでいて、隣の人が戸口に顔を出したこともあるけれど、鉄蔵はそんなことには一向頓着しないのである。(中略)初めて自分の描いた絵を自分の名前で買ってくれると版元が言ってきたとき、鉄蔵がさすがに気づいて画号はどうするとお宋の顔を覗き込んだが、お宋はふいに頭に浮かんだように目を上げて、
「オーイにしよう」といったのである。
それくらいだから、襲うは、別のことにしてもくよくよ思い悩んだり、細かい心配に気を回したりといったふうなことは何一つとしてなかった。
(本著p10-11)
1時間ちょっとぐらいであっさり読めた。
○あらすじ
江戸の絵師葛飾応為(葛飾北斎の娘、実在)が絵描いたりなんだりかんだり
○考察・感想
前にも紹介した、
の小説版という感じ。
エロ絵が描けねえっつって女なのに吉原行くエピソードとかどっちにも出てきたけど史実なんですかね。すげえな。
何気に昌代さんはこの作品で文藝賞受賞したりしてるので、応為さん知らん人でもしっかり楽しめるのではないかと思います。150pしかないからすぐ読めちゃうし、気軽になんか欲しい、という時にお勧め。
応為、現存する作品がめちゃ少ないせいで企画展とかも開催されそうにないのが悲しい。。