寝楽起楽

ネタばれには配慮しない、感想/紹介ブログです。毎週1回更新 +α を目指したかった。

島崎藤村『初恋』 堀辰雄『燃ゆる頬』 尾崎翠『初恋』 アンデルセン『柳の木の下で』 ちくま文学の森 一巻収録

こういう短編集は、一つ一つを記事にするのは面倒だが、全部一まとめに感想を書くのも難しいので、この様に小分けにして書いていくことにした。

 

今回は、ちくま文学の森『美しい恋の物語』から4編。

多分全部青空文庫かなんかに入っていると思うので、興味が出た人が(もしいれば)読んでみそ。

 

美しい恋の物語 ちくま文学の森 1巻(全10巻)

美しい恋の物語 ちくま文学の森 1巻(全10巻)

 

 

 

最初の島崎藤村『初恋』は詩である。

しかし自分の言語能力が足らんせいで、ネットで検索しなければ正しい意味が取れなかった。

もう著作権は切れているので、ここに丸ごと貼っておく。

 

           まだあげ初めし前髪の
           林檎のもとに見えしとき
           前にさしたる花櫛の
           花ある君と思ひけり


           やさしく白き手をのべて
           林檎をわれにあたへしは
           薄紅の秋の実に
           人こひ初めしはじめなり


           わがこゝろなきためいきの
           その髪の毛にかゝるとき
           たのしき恋の盃を
           君が情に酌みしかな


           林檎畑の樹の下に
           おのづからなる細道は
           誰が踏みそめしかたみぞと
           問ひたまふこそこひしけれ

 

趣のある、あまあまの詩である。

 

『燃ゆる頬』 堀辰雄

風立ちぬを書いた人。

高等学校の寄宿舎に入った少年の恋の話。

いきなりBLから始まったのでびっくりである。

薔薇、百合は、文学ではやたら美しいものの様に描かれることが多いけれども、それは何故なのか。誰か教えて。

 

最初に主人公に迫る魚住(「口元にはたえず少女のような微笑をちらつかせ」、「眼は真っ赤に充血」しながら、熱い呼吸を頬にかけてくる、なんて描写がある。正直この時点でだいぶおなかいっぱいになった)も、

終盤近くでは全く男色への興味が無いような描写があったし、主人公自身もあまたの少女への恋愛に傾倒していったようなので、多感な時期の少年たちが、擬似恋愛として惹かれあった、ということなのだろう。

 

病気で死んでしまう三枝だけが、少年のまま、つまり主人公に心を寄せたままであり、そのことを私は最期にある形で思い出さされ、自分が脱ぎ捨ててきたものを生生と見せ付けられた、というところで終わる。

 

堀辰雄ってこんなん書くのね、という感じだった。

 

『初恋』 尾崎 翠

尾崎さんは、小川洋子さん(博士の愛した数式とか書いた人)がまとめた『小川洋子の偏愛短編箱』で、『こおろぎ嬢』という作品を確か読んだ。

 

内容はさっぱり覚えていないが、小川さんが「ひっそりと暮らしている、自分の叔母さん家に遊びにいって、部屋を見て回っていた時に、たまたまその叔母さんが書いた本を発見する」というのが、尾崎さんと読者との距離感である、みたいな紹介をしていた記憶がある。もしかしたら別の人に対してだったかも知れないけど。

 

でも、このたとえというのは、確かにすっと納得。尾崎さんはそんな作家である。

 

さて本作は、ある村で受験のひと夏を過ごしていた学生が、そこで開かれた盆踊りに参加したところ、ある婦人の踊っている姿に惹かれて、後をつけてみたら、なんとそれは・・・という話である。

 

祭り、すなわち非日常の高揚したときに、確かに観ていて心地の良いような感じのする人(まあ、それも見慣れていたから、だろうが)がいたら、心動くことはあるだろう。

 

『柳の木の下で』 アンデルセン

アンデルセンは説明不要でしょう。

しかし、彼、したかったのに、結局生涯独身で終わらざるを得なかった、というのは悲しいものがある。

 

その経験もこの短編に生きているのか、幼馴染であった子に恋をしたが、なんやかんやで離ればなれになり、彼のほうは思い続けていたけれども、彼女のほうは全くその気がなくて、違う人と結婚してしまい、彼は悲嘆にくれて、彼女と幸せに暮らす夢を見ながら死ぬ、というとてつもなく悲しいお話。

アンデルセンの私情入りまくりだろこれ。

 

翻訳物って、外国語のほうが美麗的な修飾が多いからなのだろうか、叙情が過ぎるきらいがある様に思うのだが、こういう童話チックなものは素直に読めて大変良かった。

 

なんか書き始めたら意外と長くなってしまった。誰か読むのだろうか、これ。