両手とも左手なのでひだりがわに立たないとあなたと手をつなげない
利き腕がある機械、ていう発想。しかも両手ともひだり。不器用そう。
○内容
「まだ京都に海があった」2006年から「ほぼすべてが陸地となってしまった」2013年までの短歌を収録した第一歌集
○好きな短歌10選
演奏にかたち取られた恋人の六分二十二秒の微笑み
何かに心を奪われてる=体は抜け殻。でも微笑みは残った、てことかと思ったけど、「かたち取られた」が意味深。体ごと全部持ってかれてチェシャ猫みたいになってるってことか?
新しい世界にいない君のためつくる六千万個の風鈴
一つ一つの音は小さくとも、六千万個もあれば届くだろうと。
自転車に乗るのが下手なともだちを自転車置き場につないで帰る
お前なんか自転車になってしまえ!みたいな?
奪取した化粧室には窓がなく端正こめて描いた月の絵
トイレに月の絵あったら一瞬立ち止まっちゃう。
「教室もいつかは雨に帰りたい」ベゴニア栽培雑誌に君は
植物を育ててるのに、教室が帰りたがるのは雨なんですね。教室「も」の中に、「ベゴニア」が入ってるのか「君」が入ってるのかで解釈分かれそう。
君はまた教室裏で泣いている(教室裏は存在しない)
どこにも居場所が無くてまた泣く。
傘をうつたびに雨からあまおとが剥がれていつか死ぬ身をわしは
雨と何かが接触して音が出るんじゃなくて、雨粒自体に音が内包されてるという気づき。
遠雷に遅れて誰かの呼び声が聞こえる たぶんずっと前から
多分、雷が鳴ってる時にしか聞こえない声。
片付けてしまった町を出しにいく駅員さんを君が手伝う
町の代表は「駅員さん」なんだなと。駅は入り口でもあり出口でもあり。で、「君」はそれを手伝える。
もうなにもころさない手でいいからねわたし消えたりしないよずっと
これなんかすげえ優しい歌。
10首選ぶのって難しいな。総じて良い短歌集でした。
以上。