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ハンター必携:『クマにあったらどうするか:アイヌ民族最後の狩人』 語り手・姉崎等 聞き書き・片山龍峯 ちくま文庫 2014年

 CAPCOMが送る大人気ゲームシリーズ、『モンスターハンター』の最新作が発売されて一か月弱が経ちました。皆さん、充実した狩り暮らしを送っていますでしょうか?

 

 ゲーム脳が取り沙汰されたのは一昔前のことですが、中にはコントローラーを握りながら、「自分もこんな狩りを実際にしてみたい!」と思う方もいるかもしれません。

しかし、人体構造上不可能なところから身の丈以上の大剣を抜刀し、大型モンスターと同等に渡り合い、突進を食らっても死なず、高所から落ちても無傷……。そんなゲームの中のキャラクターは控えめにいっても「超人」といって差し支えなく、只の人である私には無理だ、と諦めてしまってはいませんか?

 

 そんなあなたにも、そして狩り暮らしを送るすべての人におすすめしたいのが、この

『クマにあったらどうするか:アイヌ民族最後の狩人』

 

クマにあったらどうするか: アイヌ民族最後の狩人 姉崎等 (ちくま文庫)
 

 

 タイトルの通り、本書はアイヌとの混血である姉崎等さんが、十二歳~七十七歳までの狩人人生を振り返りつつ、クマとの対峙の仕方を教える構成となっています。

 

 まず注目してほしいのが、その人生の半分以上を狩りに費やしてきた姉崎さんの、膨大なサバイバル知識。

 

 日高とか十勝とかああいうしばれ(寒さ)の強いところに冬に行って、そこで川に落ちて長靴の中に水を入れたとする。みんな靴を脱いで靴下を絞って履くでしょう。それは駄目なんです。間違ってもそんなことしたら駄目なんです。すぐに凍傷になってしまうから。 

 そういうしばれの強いところでは、長靴の中の水を抜かないでドボドボっと長靴の中で水がたまっていても、そのまま歩くと、水が靴の中で暖かくなってくるんです。足が重い軽いの理屈でなく生きようという信念でやるんです。

(p83)

 

 狩人になりたい人には為になる知識が満載です。

 

 また同時に、本書は「狩人として生きる心構え」や、「良い狩人となるためにはどうすればよいか」も同時に教えてくれます。

 

 それでもハンターは銃を向けて落として、ものの命を取ってきて自分たちの生活を潤しているんだから、感謝の気持ちは持たなければならない。クマを招待するにしても人間と同じで、うわべだけの招待だったらクマも嬉しくはないですよ。心の良い人の家に招待されたいという話があるのは、人間の心を正しく運べよ、とアイヌは考えたからだと思います。

(本著p208)

 

 逆鱗や宝玉が出ないのは、もしかしたら気持ちが足りないせいかもしれない……。

 自分の狩り暮らしを、本を読みながら反省しませんか?

 

 姉崎さんにとってクマとは「師匠」であり、「隣人」であり、決して倒すべき敵なんかではありません。山を知り、クマを知り尽くした人の語りは、私たちが如何に山を知らないかを同時に浮き彫りにしてくれます。

 

 規制をよしんば作っても、クマの方は守るかもしれないけど、人間の方は守らないでしょう。

(本著p298)

 

 またアイヌとの混血(チポエップ)という立場であり、また自らをアイヌ民族であると公言しているところから、本書は同時にアイヌについて勉強できる読み物ともなっています。なので当然、ハンターではない皆さんにもおすすめです。

 

 ハンター暮らしに焦がれる皆さんも、本書を読めば必ずやそのゲーム脳と、それからクマに対する誤ったイメージが粉砕されることでしょう。

 

 以上。