「小説というものは問題が起こり、解決されていく過程で主要人物に変容が起こる、その過程 を楽しむものだ」
と、いうような人にはオススメできない作品。
この小説では事件らしい事件は何も起こらない。胸がすく逆転劇、めくるめくドラマ、そんなものを期待して読んではいけない。
本著で描かれるのは、ただの我々の日常、何気なく生きているとそのまま通り過ぎていくものたちだ。
その取り上げ方があまりに自然であるために、読んでいてもこの風景•感情に覚えがある、とハッとさせられるようなことがなく、この点がますますこの作品を凪いだものにする。
ある意味ではつまらない作品で、そのはずなのに山崎の変な力み具合、池之上さんの底知れなさ、サカキさんのいい人ぶり、そうしたものに促されるまま読み進め読み終わり、いい気分のまま何となく本棚に仕舞いこんで、何年後かにふと思い出す。
なんかそんな感じ。
あるいはいっそ何十年後かに読み返してみると面白いかもしれない。
小津安二郎の映画が「古き良き時代」の風景画としてしばしば語られるように、この作品も今この瞬間の平成の風景画として生きるのかもしれない。わかんないけど。
以上。久々読書記録。もしかしたらしばらくまた続くかも。