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チャールズディケンズ『オリバー・ツイスト(上)(下)』 北川 悌二訳 角川文庫 2006年(原著1837-39)

 

 

オリバー・ツイスト〈上〉 (角川文庫)

オリバー・ツイスト〈上〉 (角川文庫)

 

 

 

オリバー・ツイスト〈下〉 (角川文庫)

オリバー・ツイスト〈下〉 (角川文庫)

 

 

 

 19世紀のイギリス、救貧院で虐げられていた善良な少年が逃げ出せたと思ったら悪党の一味に入れられちゃって脱出して良い人達に迎えられるかと思ったらまた悪党に捕まり逃げられたと思ったらまた試練を迎えるけど最終的に幸せになる話。

 

 多分19世紀前半というのは小説がしっかり社会に対する影響力を持ちえていた時代で、この物語は「新救貧法」という、社会からの福祉を受ける者は、もっとも最下層で働く労働者の環境以下に居なければならない、というなんだか日本の生活保護問題とかで聞くような理論のもとで制定された法律に対する批判を念頭にして書かれている。

 

 解説を読むまでは知らなかったことだけど、ディケンズ自身が相当に貧しい家庭の生まれ、というかちょっと調べた感じだと父親が駄目駄目だったらしく、その窮状はなんと幼少時代に一家全員で牢獄生活を送るほどであったらしい。

 

 そっからディケンズは成り上がって作家としての地位を確立していくわけだけど、本作はその貧乏時代の経験を存分に活かして書かれているとみえ、はっきりいって善人陣営よりも悪人陣営のほうがはるかに丁寧に生き生きと活写されているのが特徴的。

もちろんフィクションだけれども、19cイギリスの下層生活を知りたければこれを読め、といってもいいのではないかと思う。

 

 個人的読みどころとして3つ挙げると、

・救貧院を脱出する際の、ディック(救貧院に残る少年)とオリバー(主人公。脱出する)の、お互いの今後を案じあい祈りあう短い会話を描く第七章のラスト

・それから第四十八章、サイクス(悪党の一人。凶暴)が逃亡する場面の寒々しさ

・第五十二章でのフェイギン(悪党一味の中心人物で、オリバーに盗みを教えこもうとした)の処刑前の一週間の心理描写

 

 ここは特に丹念。書きたい話だったんだろうな、という熱量を感じた。

 

 個人的に嫌だったのは悪を倒す手順が整った後の、無関係なはずの群集がつめかけてよってたかって一味を追い詰めていくところで、お前ら関係ねーじゃんって言いたくなるし、正義を振りかざすことが出来る立場に自分がいると思い込むのは恐ろしいよなーと。

 

 一番好きなキャラは初登場時から、なんとなく飄々とした感じでいる悪党一派の一人であるペテン師君。確かにやってることは駄目なんだけど、彼はしっかりと自分で選択したうえで其処に居るという風があり、捕まった後も他の奴等とは違って堂々と描かれていた。作者も実は気にいってたりするのではないかと思う。多分最終的にはろくな目にはあってはいないのだろうけど。

 

 時代背景こみで読まなければいけない小説って、事前情報をどこまで仕入れてから読めばいいかって迷いどころ。

調べてないでいくと冗長に感じて退屈に思っちゃったりする箇所が出てくるし、かといって調べちゃうとネタバレをされた気分になるんですよね。どうすりゃいいのか。