寝楽起楽

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上橋菜穂子『月の森に、カミよ眠れ』 偕成社 1991

 

月の森に、カミよ眠れ (偕成社文庫)

月の森に、カミよ眠れ (偕成社文庫)

 

 

 

上橋菜穂子さんは、この人の作品が読めるのだから、生きててよかった、と個人的に思っている作家の代表である。

 

獣の奏者守り人シリーズで広く名を知られるようになったが、本作はそれ以前に描かれたもので、商業作品としては多分二作目。

 

九州の、愛した男の正体が実は大蛇で、それでも側を離れずついに子を産んだ女性の古い伝説を基にして書かれており、神と人との間にもうけられた子が、新しく朝廷に従ったある地域の、月のカミの調伏を頼まれる、でもその影にはある因縁があって、、というストーリー。

 

縄文から弥生に移り、それにともない狩から稲作へと生活が変容する、時代設定をうまく生かして書いているけれども、いかんせん後書きで仰っているように資料の少ない時代と場所であるがゆえに、世界観はうまいこと今までの幻想文学の人たちが積みあげてきたものに委託している感がある。

こういう書き方も出来るんですね。上にあげた二作とはまた全然違う感じ。

 

多くを語り部形式で綴っていることもあり、ムラの中で、ぽつりぽつりと伝承を語られるのを自分も覗かせてもらっている気持ちになる。

 

多分今では失われてしまった、かつては語られていた物語がたくさんあるはずで、それを思うと残念だけれども、今私たちが居る場所の奥底で、それらが静かに眠っているところを想像するのは怪しくも楽しい。