寝楽起楽

ネタばれには配慮しない、感想/紹介ブログです。毎週1回更新 +α を目指したかった。

アーシュラ•K.ル=グウィン『壊れた腕環 ゲド戦記』 清水真砂子訳 岩波少年文庫 2015年(原著1971年)

 

 

影との戦い』に引き続き読みました。

 

 

こわれた腕環―ゲド戦記〈2〉 (岩波少年文庫)

こわれた腕環―ゲド戦記〈2〉 (岩波少年文庫)

 

 

 

前作でゲドが成長しきっちゃったよね、という話は前に書いた通りで、今回はあれから更に経験を重ね魔法使いとして大成し、導く側として登場。

 

ゲドが救うのは、テナーという真の名を奪われ、名無き者に仕える大巫女としてあることを強制されているアルハ(喰らわれしものの意)という少女。

 

テナーはアルハとして生きる在り方しか知らない自分に苛立っているんだけど、彼女を取り巻く世界は小さく、唯一落ち着ける空間といえば彼女のみが自在に歩くことを許された、神殿地下の大迷宮のみ。

 

んで、いつものようにそこに潜っている時に、彼女は侵入者であるゲドに出会い、彼との交流の中で自分の真の名を取り戻し、やがて自由へと至る、というストーリー。

 

第一作で彼の師匠であったオジオンを思い起こさせるような、ゲドの不親切かつ意味深な所作が面白い。

 

ゲドがアルハに教えるのは、テナーとして生きる道の入口のみ。その先にあるのはアルハにとっては完全に未知のもので、だから彼女はそれを恐れ躊躇う。

ゲドはもしアルハが闇に留まれば自分は死ぬと確信している(その根拠は作中で示されることはない)んだけど、それを事前に口に出すことはなく、あくまで彼女の選択に任せようとする。

 

結局彼女はテナーを選び、しかしその後の道のりは決して明るいことが示唆されている。

本作で繰り返し描かれているのは死とそこからの再生、生きることと自由の苦しみ。

影との戦い』に引き続きテーマは重苦しい。

 

独自だなーと思ったのは、闇を打ち払うべきものでも、崇めるべきものでもなく、ただ其処にあるものとして捉えているところ。

そういうスタンスだから、ゲドはアルハとしての生き方も表立って批判することはない。

 

描写としては、まだ幼少のテナーがアルハへと生まれ変わる、冒頭の儀式シーンが非常に濃厚。

 

闇に包まれててよく見えない玉座の、三段前の階段は人が通ってはいけない名無き者の場所で其処には埃が積もっている。

その一段下の窪みに頭を乗せて、首を切り落とされるふりをすることによって、テナーはアルハになるんだけど、こんなん控えめにいって大好物です。

「少女の黒髪がふたつに割れて、白いうなじがのぞいていた。」とか、こういうさりげない表現もたまらんなぁ〜ってなる。ので読んでほしい。

エレス•アクベの腕環の話とか、此処には書いてない要素も一杯あるんで。てかよく考えるとタイトルになってる部分ガン無視の感想になってますね。

 

解説チラ見したらマヤ文明が元ネタらしいんで、時間作って調べてみたいなあ。

 

以上。

葛飾北斎の娘の絵がかっこいい話

葛飾北斎富嶽三十六景とか描いた皆が知る有名人だと思います。今回はその娘の話です。

 

まんがタイム』っていう、芳文社が刊行してる四コマ漫画専門雑誌で、『北斎の娘』なる漫画が今連載されてます。

 

北斎のむすめ。(1) (まんがタイムコミックス)

北斎のむすめ。(1) (まんがタイムコミックス)

 

 

彼女を中心とした江戸の人間関係をゆるゆるに描く日常系漫画なんですが、僕はこれで葛飾応為を初めて知りました。この絵がかっこいい。

 

f:id:marutetto:20170511122248j:image

 

 なんか浮世絵っぽくないですよね。遠近感があるし、光の表現がしっかりついてるんです。江戸のレンブラントって呼んでる人もいるらしい。

平坦な日本画の感じを見慣れてると違和感を感じるけど、不快ではない。西洋表現を上手く取り入れてる気がします。

 

f:id:marutetto:20170511122744j:image

 

ジャポニズムの絵として一番有名なのは多分モネのこれ。でも見比べると応為の圧勝じゃない?確かにモネのも凄いけど、技法そのものはそれまでの西洋方式から脱せてるかっていえば全然できてないように見えるじゃないですか。

完全素人目ですが。

 

応為さん、現存する絵が10点程度しかないみたいなのが残念でならんです。

彼女題材にしたアニメ映画が、クレヨンしんちゃんの監督であったそうで、今度見てみます。

アクセス解析とうんちの話

弱小ブログを継続的にやっている人が、気にしちゃだめだと思いながらも奇跡が起こることが信じて見にいっちゃうものとしてアクセス解析ページがある。というかすいません僕の話です。

いや、たまに。たまにね。毎日とかじゃないよ。ほんとだよ。

 

んで当ブログの読者層はアクセス元を見れば一目瞭然な通りほぼほぼ知人なんだけど、唯一検索でたどりついた人が、公開当時結構いたっぽい記事があります。

なんだと思います?参考までに解析ページに出てる検索ワード(こんなことまで解るってすごいよね)をいくつかあげると、「ちんこ  小学生」「うんこちんこおっぱい」などです。

 

これで察せたら無駄にこのブログ読んでますねって話ですが、元はこれです。

※下品注意 なぜ小学生男子は「うんこ」「ちんこ」を好んで使うのか - 寝楽起楽

 

大学入る前に書いたほんとしょうもないやつなんで飛ばなくていいです。

よりしょうもないのはこれが当ブログで一番アクセスを稼いでいるという事実で、しかもこれ公開してからも60記事ぐらい書いてるはずなんですけど、未だにこのブログでのアクセス元ページとして「うんこちんこおっぱい」のグーグル検索結果とかが割合0%でずっと表示されてて、これが意味することはなにかっつーとつまりその後の60記事に検索でたどりついてる人が一人もいないってことなんです。

悲しい悲しい話です。いや気にしてないけど。

 

あと、「子供ちんこ〜大人ちんこ」だの「子供のちんこ 生」だのでたどり着いてる人は何なの?何目的で検索してたの?怖いんですけど。

でも考えてみると、女性は割と常日頃からあれやこれやと検索されまくってるわけで、それ考えると寒気しますね。

 

ええっと話が逸れたんですけど、今回この話をしたのは友人から聞いた小学生とうんちに纏わるエピソードを紹介しようと思ったからです。

 

彼、障害のある子供達を、動物との触れ合いで自然体験をさせることで支援するボランティアをしてる偉い奴なんですが、事件は子供達に馬の寝床を掃除させてる時に起きました。

 

彼の担当は腕白な男の子A君と潔癖少年B君で、B君は潔癖なんで当然掃除を嫌がる。なんせ馬のうんちとか落ちてる。

「お部屋が汚いままだと、おうまさんが嫌がるでしょ?」とか、どうにかなだめすかして掃除をさせてたらしいんですが、A君は腕白なんでそういう隙を逃さないんですね。

 

でA君何するかっていうとまず馬のうんちで遊び始める。それだけならまだ彼が汚くなるだけですけど、それをよりによって潔癖B君にぶん投げちゃった。

当然B君泣きながらマジギレ。しかしこの後も予定が詰まってる。

しかもペアは変えられないんで、友人は仲直りさせなきゃいけなくなって、めっちゃ大変だったそうです。

 

「でも考えてみれば当たり前の話で、うんこ投げられて許すわけねーんだよな」って友人がしみじみ言ってたのがすげー面白かったです。

「うんこ投げてごめんなさい」って言われて「いいよ」って返せる人どんだけいるかって話ですよね。

あと怒る方も真面目に怒るの難しくありません?ゴリラの威嚇かよって思うじゃん?

 

今回ほんとこれだけなんですけど、今思い返してもじわじわ笑っちゃうので書きました。

以上です。今後とも細々やっていきます。

 

 

 

チャールズディケンズ『オリバー・ツイスト(上)(下)』 北川 悌二訳 角川文庫 2006年(原著1837-39)

 

 

オリバー・ツイスト〈上〉 (角川文庫)

オリバー・ツイスト〈上〉 (角川文庫)

 

 

 

オリバー・ツイスト〈下〉 (角川文庫)

オリバー・ツイスト〈下〉 (角川文庫)

 

 

 

 19世紀のイギリス、救貧院で虐げられていた善良な少年が逃げ出せたと思ったら悪党の一味に入れられちゃって脱出して良い人達に迎えられるかと思ったらまた悪党に捕まり逃げられたと思ったらまた試練を迎えるけど最終的に幸せになる話。

 

 多分19世紀前半というのは小説がしっかり社会に対する影響力を持ちえていた時代で、この物語は「新救貧法」という、社会からの福祉を受ける者は、もっとも最下層で働く労働者の環境以下に居なければならない、というなんだか日本の生活保護問題とかで聞くような理論のもとで制定された法律に対する批判を念頭にして書かれている。

 

 解説を読むまでは知らなかったことだけど、ディケンズ自身が相当に貧しい家庭の生まれ、というかちょっと調べた感じだと父親が駄目駄目だったらしく、その窮状はなんと幼少時代に一家全員で牢獄生活を送るほどであったらしい。

 

 そっからディケンズは成り上がって作家としての地位を確立していくわけだけど、本作はその貧乏時代の経験を存分に活かして書かれているとみえ、はっきりいって善人陣営よりも悪人陣営のほうがはるかに丁寧に生き生きと活写されているのが特徴的。

もちろんフィクションだけれども、19cイギリスの下層生活を知りたければこれを読め、といってもいいのではないかと思う。

 

 個人的読みどころとして3つ挙げると、

・救貧院を脱出する際の、ディック(救貧院に残る少年)とオリバー(主人公。脱出する)の、お互いの今後を案じあい祈りあう短い会話を描く第七章のラスト

・それから第四十八章、サイクス(悪党の一人。凶暴)が逃亡する場面の寒々しさ

・第五十二章でのフェイギン(悪党一味の中心人物で、オリバーに盗みを教えこもうとした)の処刑前の一週間の心理描写

 

 ここは特に丹念。書きたい話だったんだろうな、という熱量を感じた。

 

 個人的に嫌だったのは悪を倒す手順が整った後の、無関係なはずの群集がつめかけてよってたかって一味を追い詰めていくところで、お前ら関係ねーじゃんって言いたくなるし、正義を振りかざすことが出来る立場に自分がいると思い込むのは恐ろしいよなーと。

 

 一番好きなキャラは初登場時から、なんとなく飄々とした感じでいる悪党一派の一人であるペテン師君。確かにやってることは駄目なんだけど、彼はしっかりと自分で選択したうえで其処に居るという風があり、捕まった後も他の奴等とは違って堂々と描かれていた。作者も実は気にいってたりするのではないかと思う。多分最終的にはろくな目にはあってはいないのだろうけど。

 

 時代背景こみで読まなければいけない小説って、事前情報をどこまで仕入れてから読めばいいかって迷いどころ。

調べてないでいくと冗長に感じて退屈に思っちゃったりする箇所が出てくるし、かといって調べちゃうとネタバレをされた気分になるんですよね。どうすりゃいいのか。