とどきますか、とどきません。光かがやく手に入らないものばかり見つめているせいで、すでに手に入れたものたちは足元に転がるたくさんの屍になってライトさえ当たらず、私に踏まれてかかとの形にへこんでいるのです。とどきそうにない遠くのお星さまに受かって手を伸ばす、このよくばりな人間の性が人類を進化させてきたのなら、やはり人である以上、生きている間は常に欲しがるべきなのかもしれない。 みんなの欲しがる気持ちが競争を生み、切磋琢磨でより質の高いものが生み出されていくのですね。でも疲れたな。まず首が疲れた。だってずっと上向いてるし。
(本著p7-8)
ちょっと詩人ぽい出だしからがんがん恋愛方面にいくのがリアルっちゃリアル。
○あらすじ
ずっと片思いしてる理想の「イチ」と全くタイプじゃないけどがんがん推してくる現実の「ニ」の間で揺れ動く 「勝手にふるえてろ」
だるいしんどいつかれた 「仲良くしようか」
以上2編所収。
○考察・感想
新着ブログ記事を漁るのに一時期はまっていた、というか今でもやってるんだけど、たまにぎょっとするほど赤裸々だったりポエミーだったりするものがあって中々面白い。
この小説もジャンル分けするとすれば多分その辺り。悪く言ってしまえばチラシの裏にでも書いてろよ、というような他者から見ればほんとにどうでもいいことだけど、本人の中では 滅茶苦茶切実で、それも自分で分かってるから本来は独白して終わりのところを小説にしちゃいました、みたいな。簡単なようでいて誰にでも書けるようなもんではない。
勿論、完全に個人にしか理解できないような形で書いてしまうとそれは小説ではないので、どこまでいじるかの按配が中々難しそうだと感じる。今作はその面で言うとわりとマイルドに一般向けにしてる風。ただ、「勝手にふるえてろ」的な子も「仲良くしようか」的な子も世の中には確実に存在しているんだろうなと思うし、大衆に当てたというよりかはあくまでもその人達宛ての作品として作ったのではなかろうか。
いかんせん自分は26歳でも女子でもないので、客観のまんまおわっちった。
綿矢りささんはタイトル付けが上手。読んでなくてもなんとなくあの人の作品か、っつって頭に残るパワーがある。
作品としては『インストール』とか『蹴りたい背中』とかのほうが好きだったかな。
以上。