寝楽起楽

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現の夢か、夢の現か:『シルヴィーとブルーノ』 ルイス・キャロル著 柳瀬尚紀訳 ちくま文庫 1987年(原著1889年)

  ――するともう一度どっと歓声が沸きあがり、とびきり興奮していたひとりの男が帽子を空中高く放りあげ(ぼくにわかった限りでは)こう叫んだのだった。「副総督閣下に万歳だ!」ひとり残らず歓声をあげたものの、それが副総督のためなのか、そうでないのかは、判然としなかった。「パン!」と叫ぶ者も、「税!」と叫ぶ者もいたが、自分たちのほんとうの要求が何かは誰一人わかっていない様子だった。

(本著p27)

 

 『不思議の国のアリス』の人です。

 

 

シルヴィーとブルーノ (ちくま文庫)

シルヴィーとブルーノ (ちくま文庫)

 

 

○あらすじ

 夢ん中に出てくる姉弟シルヴィーとブルーノが現実にも出てきてないまぜ

 

○考察・感想

 筋追おうとせず、雰囲気だけ掴めばいいんだと気づいてからは楽しめた。

ちゃんと物語を読みこんでいこうにも、夢⇔現実が明確に切り替わってるうちはまだいいんだけど、段々その境目が曖昧になっていくので、今回のキャッチコピーどおり「現の夢か、夢の現か」(←今回の文句は我ながら上手いと思った)状態になっちゃう。

 

 ただ、作品としての完成度は『アリス』のが言ってしまえばはるかに上だと思います。これは現実のお話も出てくるせいか、どことなく想像の幅が地味になっちゃってることと、端役があんまし魅力的に見えないのが要因と思います。シルヴィー、ブルーノ、ミリュエル嬢、アーサーあたりは良いんだけど。

『アリス』はちゃんと一本筋のある話になってて分かりやすいのもありますかね。

 

 英語が出来る人は、Sylvie and Brunoで検索すれば原文が出てくるので、訳を比べるのがとても面白そう。えらい大量に出てくる、翻訳者泣かせな言葉遊びに対する捌き方はさすがプロという感じ。注読むと、悪戦苦闘しながらも頭を捻ることを純粋に楽しんだ感が伝わってきて、とても良いです。

 

以上。